露天掘り ボブ・サンダーズ

スタッズ・ターケルの『仕事(ワーキング)!』を読んでます)

インディアナ州ブーンビルの新築の一戸建て住宅地区にいるボブ。感じのよい庭木、表の芝生はきれいに刈り揃えてあり、裏には車が二台置けるガレージ。家並みはほどよい間隔を保たせてあるが、周囲の家と区別するのは難しい、という新興住宅地でしょうなあ。

インディアナとケンタッキーの州境にあるこの町は、リンカーンが若い頃法律の勉強をしたところだといわれている。今は、あたりが"かなくそ"と"けつ岩"の山で覆われてしまっている。ここはアメリカでも最も古い露天掘りの地方である。

原文はshitなのかassなのか、珍妙な訳ですねえ。恐らく地元の人がこの場所を自嘲して表現したんでしょうね。のっけから石炭掘りの経験者にしか分からん表現でやってきます。

石炭を掘るんじゃあないよ。石炭から泥を落とすんだ。泥のしまつをして、機械をうまく使うのがコツなんだ。80フィート、90、95フィートといった土のなかまで機械を入れるわけにはいかない。俺の話わかるかい? マネジメントの話さ。できるだけ安く土を取り除く。最大なものをやっつけてしまいさえすれば、あとは簡単さ。

うーん…なんか珍妙なハエがプンプン飛び回っているような訳文なんですけど、気にせず先いきましょう。どうやら仕事の内容は、機械を扱う仕事のようでして、その機械自体は昼夜を問わず動いていて、その管理を三交代制でやってて、機械動かしている時にはタバコもコーヒーもやれるらしいです。

すっかり忘れていたんですが、石炭を掘るっていうことは、やはり原発やなんかと同じく、地元と会社の折衝が必要になってくるわけで、だいたい会社のほうの条件っていうのは、石炭を掘り尽くしたら土地をならして返還しますよっていう感じなんでしょう。

仕事には不満はいくらでもあるさ。俺は、この土地が崩されるのを見たくないさ。特に、この土地のもっといい使い道があればなおさらだ。ずーっとそれは考えている。

つまり彼は地元出身なんでしょうかね。そんで石炭掘りの仕事で身過ぎ世過ぎが楽にもなってる様子。ただ、1954年に、石油と天然ガスという新エネルギーのほうにメジャーが行っちゃった後で、小規模の設備から再び始まったということらしいです。石炭が生き残っていたばかりではなく、安いエネルギーとして需要があったということ、これ本文に書いてたことですが調べてはおりません。時代の狭間といえばいいんでしょうか。

あーいーゃ、緊張なんてしないさ。俺はガキの頃から、このへんのことをやってきたんだ。炭坑夫の仕事は戦争中に始めたんだよ。高校の頃だ。はじめは品質検査所で、次が測量さ。どっちも社員だったんだ。炭坑夫はUMW(全米炭鉱組合)の所属だ。土地が崩されるのを見たがってる組合員なんているもんかね。

緊張ってもしかしてnervousでしょうか。だとしたら泣けるなあ…。

それはいいとして、結局彼も、石炭掘りはそれほど長くは続かず、将来は別の仕事で会社員でもいいなと語っております。彼も石炭が斜陽産業であることはよく理解していること、会社が石炭を掘り尽くした後に農地として戻すあてはあんまりないんじゃないかって考えていること、そして仮に戻されたとしても、そこにトウモロコシを植えて生活していくイメージは湧かないんだろうなってこと、を感じました。