『面白半分』を読みました

宮武外骨の『面白半分』を読みました〜。

面白半分 (河出文庫)
面白半分 (河出文庫)
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宮武 外骨
河出書房新社
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ちょっとかっこよかった文章を引用させていただきます。

男尊女卑と女尊男卑とは、いずれが正当であるかと言う古臭い問題が起こった。
甲のいわく、欧米諸国のことは知らないが、支那や日本では男尊女卑である。熟語にも「男女」と言って「女男」とは言わない。尊いものを先にすることは「尊卑」の熟語を見ても明白である。その他、善悪、美醜、是非、上下、高低、有無、長短等、みな尊いものを先にしてある。
乙のいわく、なるほど、支那では男尊女卑であろうが、我が日本では女尊男卑である。戯曲に演ずる男女の名を呼ぶに必ず女を先にして男を後にする。小春治兵衛、お半長右衛門、お園六三郎、お染久松、浦里時次郎、三勝半七、夕霧伊左衛門、梅川忠兵衛の類挙げて数うべからずである。なおまた支那の熟語と日本の熟語と反対なのが多いのを見ても、日本では陰を先にし陽を後にすることが明白である。その通例を言えば、
表裏ーうらおもて 前後ーあとさき 日月ーつきひ 昼夜ーよるひる 左右ーみぎひだり 寒暑ーあつささむさ
このほか支那では「夫婦」と言うが、日本では「女夫(めおと)」と言う。女尊男卑たることは確実である。
以上、甲者乙者の論によって、我輩が覚ったのは、「貧富」の尊卑である。「貧富」という熟語の順序によって、貧尊富卑たること明々白々であるから、卑しい金持ちになりたがりもうな。
(『つむじまがり』貧は尊く富は卑しより)

もうひとつ、かっこよくキマってた文章を。

▲権利 権利とは職権によって利益を図ることをいう。例えば官吏がその職権を濫用して賄賂を貪り、機密を利用して株の大儲けをなすがごとき。みなその類なり。
▲義務 義務とは義理のために拠どころなく或る務をなすことをいう。食客が食わせてもらっている義理によって坊チャンのお馬の役を務め、下宿屋の娘が時々半襟などもらう義理につまされて、ヒョットコ学生のために務をなすがごとし。
(『面白半分』滑稽法律辞典 より)

現在、快楽亭ブラック(初代)、幸徳秋水島崎藤村、長与善郎なんかを並行して読んでまして、自分の中でちょっとした明治大正ブームでもあるんですが、どれもこれも難しくてねー、あとまあまあ大して興味がそそられず、そのくせ考えたり寄り道したりする示唆はさすがに多くて、あっちに行ったりこっちに行ったりしながら、それで各々なかなか読書が進まないのですが、この本ばかりはツルツルっと読めました。

外骨さんは非常に多くの雑誌を発刊しては廃刊しているんですが、なかでも有名なのがこの『面白半分』というタイトルで、なんでだろ聞いた事あるなと思ったら、これは1970年代に野坂昭如ほかの超有名作家らが編集してた雑誌と同じタイトルだったんですね〜。Wikipedia見てもビッグネームが並んでて、すごい雑誌もあったもんなんですねえ。

話は戻って、外骨さんのこの『面白半分』は、いろんな雑誌に載った文章を編集したもので、うまいこと面白い文章だけがまとまっててオイシイです。仮名遣いや熟語の意味にも留意されてて、本当に読みやすくなってて、編集者に愛があるなあと感じました。

恐らく外骨先生の原著を漁っても、あんまり面白くもない文章を食わされてしまう可能性も高いと思うんですね。表紙の装丁が異様な…これはサブカル色というのかな、そういう雰囲気をかもしてて、んで名前が外骨でしょ、これどう考えてもサブカルの元祖みたいに崇め奉られているんだろうなと思ってたんですが、実際読んでみるとそうでもない。そこが素敵だなと思いました。ただ、こういう雑文のテイストが、後のエロ本のモノクロページだったりガロ系同人誌だったりに引き継がれたであろうことは間違いないのであって、さっきの野坂昭如時代の「面白半分」にしても、そういうサブカル要素の発露だったんでしょ、と納得してしまいます。

サブカルって言葉嫌いだなあ。乱暴だもんなあ。あれはしょせん大手代理店による搾取のキーワードでしかないだろっていう。サブカルってのは、メジャーに対する、ではなく、メジャーの支店なんです。みうらじゅんさん吉田豪さんのような企画者がまずフレームを作って、そのフレームごと買わされているような気がしちゃって、だから本屋に行ってサブカルの棚なんてのを見つけるとちょっとビクっと瞬間的に怒ってしまいます個人的に。

でも外骨さんは全然違いました。喩えていうなら、かの時代の池上彰だったのではないかなと。難しい漢語で混ぜっ返すアジテーターではなく、毒舌というにはあまりにも大衆迎合過ぎるような感じを受けます。つまり平たく言えば、まともなんです。こんな人がいっぱい逮捕されてたんですから、どんだけ当時の日本が暗黒国家だったって話ですよね。最後の章「アメリカ様」だけが戦後の文章ですけれども、いやあ、戦時中もクソ国家を野次ってきて、やっと肩の荷が下りたって感じが十分伝わります。おつかれさまでしたって声をかけたくなりました。

外骨先生が存命ならば、私はマリファナとこのdvdを差し入れしたいと思いました。感想を聞いてみたいものです。