『破船』を読みました

吉村昭さんの『破船』を読みました〜。

まさにタイムリーな『三陸海岸津波』で注目を浴びる吉村さんの著作を読了したのは、今年になってから『史実を歩く』と『高熱隧道』に続いて、これですでに三冊目。1982年に刊行されたそうで、これまたずいぶん古いです。

破船 (新潮文庫)
破船 (新潮文庫)
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吉村 昭
新潮社
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たいてい文庫本の裏表紙に、粗筋というか小説の概要が載ってるじゃないですか、アレってのはネタバレ許容してるんでしょうかね? 最初にアレ読んでしまったんですよね〜。引用しますとこんな感じ。

二冬続きの船の訪れに、村じゅうが湧いた。けれども、中の者は皆死に絶えており、躯が着けていた赤い着物を分配後まもなく、恐ろしい出来事が起こった……。嵐の夜、浜で火を焚いて、近づく船を坐礁させ、積荷を奪い取るーー僻地の貧しい漁村に古くから伝わる、サバイバルのための苛酷な風習"お船様"が招いた海辺の悲劇を描いて、著者の新境地を示す異色の長編小説。

「異色の長編小説」と言うのは確かにその通りで、吉村さんにしては珍しく「どフィクション」なお話でした。僻地の漁村が船の坐礁を待ち、冬の間は浜で塩を焼いて、その炎で時化に難儀する船を呼び寄せるそうです。船員を皆殺しにして、見張りをつけて積荷を全部奪い取る。でこんなインモラルな行為が「村の言い伝え」であるとする。この設定だけでも大変なものです。よう考えつきますなあ。

ただ、結末が悲劇ってことが分かってしまったんで、一年目にお船様がやってきてウハウハしている村民どもに、こりゃお話的にはしっぺ返しが来るだろうなと思ってしまったのが残念。なにやら赤い着物を着てて全員死んでるとな、完全な災厄フラグです、どうもありがとうございます。こんなところにフラグ立てやがって、とプリプリ怒りながら読みました。担当者出て来い!っていう感じ。

吉村さんの描く人物はほっとんど会話しないんですよね。必要最小限の言葉しか交わさせない。だから百姓も坑夫も囚人も、ずいぶん寡黙なイメージがあります。前近代ってのは、人々はこんなに寡黙だったのかもしれないっていうリアリティがあります。饒舌さを徹底的に削ぎ落とした物語世界が吉村風なのですね。ところが、「病人から赤い服を引きはがすべし」という村の指図役の饒舌なことと言ったら。このお話の中でもっとも説得力を欠く部分でした。ま、そりゃそうだよな、って感じですけどね。

それにしても読みながら、いままさに起きている原発事故と人々のことが書かれているような気がしてました。「お船様」が電力の受益で、伝染病が原発事故で。当然ながら咎は、赤い服を引きはがす指示を出した指図役、ひいては村の長にあるはずなんです。この辺の人たちが政府なり東電なりにあたりますかね。で、村人たちはその咎をはっきりと責めるのかと思ったらそこら辺は前近代の無知ゆえに神頼みなんかしちゃったりしてバタバタと倒れていきます。ああ放射能だなあこれ、と思ってしまいました。やっぱ無知が一番いやですねえ。

ちなみに最後には指図役が飛び降りて死に、村の長は村を守るべく山に行ってしまいます…苛烈な結末、 まさに悲劇ですね。ってこれ書いてんですよねえ粗筋に。しっかりと。これからはうっかり文庫本の後ろの粗筋を読まないようにせんといかんですね、と思いました。