藤沢周平 ―負を生きる物語 (集英社新書)

高橋敏夫さんの『藤沢周平 ―負を生きる物語 (集英社新書)』を読みました。

藤沢周平 ―負を生きる物語 (集英社新書)
高橋 敏夫
集英社
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読む前から分かっていたことなんですけれども、藤沢周平さんという作家はとても暗いんですよね。そもそも作家さんって、どことなく動機の部分に底暗いものがあるのが典型といいますか、「作家あるある」だと思います。

この著者の高橋さんは、ま〜あ本当に藤沢周平マニアなんですね。実際新書ながらもこれだけの一作家についての文章を書けるってのは相当に読んでないとできないものだということを前置きにしても、まあ本当に「ただの」マニアだなっていう印象が残る程度でしたねー。たいした文芸批評のジャーゴンも出てこないし、藤沢周平を批評的に見ることなんざちょっとできないんじゃないかなっていう予感もありつつ読んだもんですから、「藤沢周平論」(そういうものがあるのならば)なんて成立しないだろ、と思ったら案の定。文芸批評の類の本ではありませんでした。

しかしそういう薄さに落胆することはいっさいありません。本書は異常なほどの愛にあふれています。藤沢周平ファンは世の中たくさんいると思いますが、恐らく本書の著者の高橋さんほど好きだと言える人は10人もいないんじゃないでしょうかね。文章を成立させるのは才能でも努力でもなく、最終的には愛なのだという、もっとも大事なことを、ちょっと垣間見ることができました。本書を読んだのが無駄ではなかったということですよ。

でもどうなんでしょうねー。私はなんかこう、中途半端に藤沢周平を読みまくっていたもんですから、特に市井ものの短編のあれこれはほとんど読んでいるはず、なんですよねー。藤沢周平を特集したムックなどであれば、あれこれ読書ガイド的なページを作るんでしょうけれども、本書の場合は初心者向けにという方針でもなく、かといって文芸批評という視点でもないわけで、やっぱり私のような中途半端に読んでいる者にちょうどいいってことなんでしょうかね。

サブタイトルに「負を生きる物語」とあるんですが、これを藤沢周平自身のバイオグラフィと重ね合わせるのは、ありがちなんですけど、よくできてると思いました。

というかこのブログ、随分時間が空いてしまったのはどういうわけなんでしょう。ただ怠けてたということですね。最近読書量減りました明らかに。これはまずいです。と思いつつも改善しようとは露とも思わず、成り行きに任せて続けていこうと思っております。