『下山事件』を読みました

森達也さんの『下山事件』を読みました〜。

下山事件(シモヤマ・ケース) (新潮文庫)
森 達也
新潮社
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森さんの本を読むと、ああこの人はモテるだろうなってのがよく分かります。ドキュメンタリー映画を作る上での自分の中の諸々の葛藤を描くと、あら不思議、かっこよく見えるんですよねえええ。既存メディアに異議を申し立てる姿は、もう無条件にかっこええ。でも一方で、やっかみ混じりで「あんた自分を出し過ぎウザい!!」とも言われているのもまたよ〜く分かります。

いろんな人が「下山ウイルス」に感染して拡散していった様を、過去に取材した人を訪ねていって明らかになっていくところなんかは、もうミステリー小説みたいですね。鎗水さんという元記者がいて、名前も珍しいから印象に残ったんですが、この人を訪ねたあたりの描写なんてのも素晴らしい。

例えば私もいま、"下山事件 鎗水徹"とググってみたりしているわけで、そしたら現時点で検索結果がたったの2件というのにウハッと思ったり…これもう見るからに相当強いウイルスですね。ただし事件自体がもう古過ぎるっていうのが、ネット時代には少しそぐわないかも。

んでも、下山事件は多くのジャーナリストを感染させてきた昭和の大ミステリーですから、結論が出るわけがないんです。むしろ出てしまってはいけないものかもしれません。というわけで、私はもう下山事件そのものへの興味は、この本のほぼ序盤で消えてました。だからところどころ、昔の資料や文献からまとめた事件の概要の部分なんかはすっ飛ばしました。森さんはこういうセグメントを、いかにもまとめた風に書いてて、あんまり読ませようとしてないんですよね。あといきなり小説風な実行犯の描写が差挟まれるとか。そういうところが確かに不満っちゃあ不満ですけど、なにより現在の森さんの多作ぶりを考えたら、今はもう本書とは全然違う地点に立っていることでしょう。そう思って、また森さんの次の本を読み始めてます。

もう下山事件関連の本は読まないと思いますが、柴田哲孝さんも森達也さんもこの取材を契機に互いに能力を引き出し合ったわけで、いわばガチで殴り合いをさせたそれぞれの出版社(朝日新聞も含めて)の編集の仕事もすごいなあ、と改めて思います。

あと、読んでいる間にずーっと思っていたことなんですが、森さんは絶対に漫画の原作をやるべきです。弘兼憲史さんの『ハロー張りネズミ』と被りました。あるいは『ラストニュース』の絵が浮かんでました。弘兼さんは大御所過ぎて無理だとするなら、例えば漫画ゴラク笠原倫さんとコンビを組む、とかで読んでみたいです。でもそんな仕事、しないんだろうなあ多分。