『雷電本紀』を読みました

飯嶋和一さんの『雷電本紀』を読みました〜。

雷電本紀 (小学館文庫)
飯嶋 和一
小学館
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いやいやいやあ…けっこうな長い時間をかけて読んでましたが、ずっと面白く楽しい時間が過ごせました。いま読み終えて、一度この本から離れるのがちょっと惜しいほどです。*1

長い物語になっているのには理由があって、描写が細かくて超しつこいためです。決して悪い意味ではなく、なんとなく江戸時代という雰囲気だけをモヤモヤ感じさせて曖昧に描写する時代小説のイメージを覆します。雷電という相撲取りはとにかくでかい男なんですが、大男だという表現を、もう読者も分かってるだろうって頃合いでも、また違ったやり方で繰り返してくるんですねー。あと物語の節目で、まるで作者が乗り移ったように登場人物が長い台詞を語る場面が出てきます。アレ…なにかに似ているな…と思い出したのは、これはまさに橋田ファミリーのドラマと同じです! そうすることによって、時代背景も、人物の心情も、輪郭がはっきりしてくるという塩梅式です。

相撲に限らず、鉄物商人の業界や信州の一揆など、すげえ調べて書いてて驚きます。まったくこれだけのことを調べて書くなんて、時給換算したら大変な仕事ですよこれは。江戸の地図だったら古地図が残っていますから、江戸の地図を頭に描けばなんとか話が書けそうだ、みたいな話があとがきに載っています。昔の物語を書くモチベーションとして資料というのがいかに大事かってのが分かる話です。

時代小説的にベタだと思ったのは「ゲットーの医者」と「娼館のディーバ」ですね。うはー出た出たって感じで、なんか笑っちゃいました。あとは信州の一揆と薬喰いの部分は、素晴らしかった。新鮮でした。なんで新鮮なのかというと、農民や町民の話ってのは武士よりも資料が少ないので、いっぱい本を出している時代小説の流行作家さんが追っ付かないわけですよね、多少の資料がなくてもサムライってのは書けちゃいますから。やっぱり江戸時代の庶民の話の詳細は、歴史学的にというより一般大衆的に、まだまだ知られていないんですよねー。そう考えると、この本、一体短編だったらいくつできるんだっていうくらい、エピソードが豊富ですね。相撲だけじゃないし、お得っちゃーお得です。あとエロがないってのもいいです。

それにしてもサッカー日本代表の「サムライブルー」という名前は最悪ですねー。あんなの、江戸っ子の感性で考えたら絶対に受け入れられません。サムライというのは言うなれば官僚的な体制側ですから、決して庶民を代表しているネーミングではないことに、多くの人が気がついてほしいもんですね。電通に文句言えって話でしょうけどね。

最後に注文つけるとしたら…鍵屋助五郎が一生涯いい人過ぎてなんだかなっていう感じがしました。完全にフィクションの人物なので著者はどうにでもできたと思うんですが、私は結末もBパターンにしてほしかったです。というのはつまり、助五郎が晩節に一度だけ、雷電を使って大金着服しようとして、エロ坊主と一緒に悪巧みをして、そして捕まって、さんざん人に責任をなすりつけ、苦しんで獄死する…っていうパターンもありだったんじゃないでしょうか。ありだろうけどやらねえんだよ、と言われそうですけどね、すみませんねアサハカでした。

*1:ずいぶん前に読み終えてはいたんですが、今アップしました。八百長発覚とか、宮崎の火山とか、いろいろ事件がリンクしている…ような気がする!