『博士の愛した数式』を読みました

小川洋子さんの『博士の愛した数式』を読みました〜。

博士の愛した数式 (新潮文庫)
小川 洋子
新潮社
売り上げランキング: 5711

恐ろしいことに、かつ私にとっては珍しいことに、買って一日で読んでしまいました…実に麻薬麻薬した本でしたねえ。なんともったいないことをしてしまいました。とてもテンポがよくて読みやすかったです。

まず最初に、小川洋子さんの作品を初めて読んだんですが、一番驚いたのは、芥川賞作家だということです…あのつまらないので有名な(笑!)。ええっ、全然芥川芥川してねえよなこの作品は…とひっくり返りましたねえ。とにかく芥川賞作品がこれまで一度も性に合ったことがないんですが、これはある意味仕方のないところで、想像ですけど多分芥川賞ってのは、古今東西のあらゆる文献を渉猟して生きてきた文芸オタクどもの中のさらにすごい文芸オタクどもが、文芸の狭い範囲でその突出した技巧を評価する…っていう賞なんだろうなって気がしてるんですね。ただそういうのだけだとまずいから、もうちょっとポップな売れ線狙いってのも選んでみませんかあ、みたいなことを広告代理店や出版社の柔らか〜い人が選考委員に声をかける、そうするとやっぱり顔かそれともコネか金か、みたいな部分ももちろん発生しないでもなく…いや八百長ではもちろんないにしても、技巧の評価以上に運も味方するかもしれないっていう、まあある意味「M-1グランプリ」みたいな感じの価値に落ち着くんだろうなっていうイメージなんですね。ただ、やはりM-1にしたって、運だけで取れるものではないわけで、それこそ決勝の数組に残るようなコンビだったら、舞台に立てばまず確実に笑わせられる腕前は持っているわけで、なんでいつの間にかお笑いの話になってるのか分かりませんけど、小川洋子さんもしっかりした技巧は持ってらっしゃるわけでして、いろんな文学的な表現がナチュラルに繰り出されており、すげえすげえと思って読み進めておりました。しかしまあ、驚きました。映画化もした作品でしょ、大ヒット作品。売れ線。こういうのって書けませんよ普通。

設定がなにしろ面白くて、持ってかれました。「とにかく今日は、これだけのお客さん集まったんだから、これこれこういう設定でお話を進めるんで、最後までヨロシク!」っていうマイクパフォーマンスを、小川洋子さんが武道館でやってるように感じました。数式もタイガースも、そういう面白い設定の中のひとつでしょう。では、物語としてはどうだったかという話ですが…これはその、なんと言ったらいいのか、私はよく分かりません。映画化されるっていうのは多分あるんだろうなって思いました。あるいはドラマ化するとか…結構博士の住む部屋のシーンが多かったので、安いセットと少ない登場人物、東海テレビ制作の昼ドラみたいなのをずっと想像してました。Vシネマ化は…ないな、とは思いましたが。こんな少ない登場人物で話が進みつつ、子供が怪我をしたり、野球を見に行ったり、一度クビになったり、雷が鳴ったり…とまあ、いいじゃないですかオハナシなんですから、そりゃそういうものですよねっていう割り切りは必要ですね。

最後まで一気でしたね。なにしろお話の進め方は上手ですよねえ。さすがM-1優勝者、じゃないや、芥川賞作家です。最後の方にさしかかってきてふと思ったんですが、電子書籍と文庫本の違いは、最後までページの残り少ないところで「そろそろ終わるのかあ、まとめにかかってんのかなあ」みたいに思ってしまうところでしょうね。最後の方にさしかかると、もう一気に読んでしまえ、と思わされました。なかなか箸を置いて飲み物を注文するとか、休ませるものがなかったと言えばそうかもしれません。

そうか、そうなんだよなー、売れた本ってのは、たいていチェーン居酒屋みたいな読書体験になってしまうんですよねー。本屋大賞とかもそうでしょ、なかなか悩めるところです。読みたいんだけどタイミングを逸してしまうっていうねえ。そんなの気にせずサクサク読めばいいんですけどねえ。