製鋼所労働者 マイク・ルフェーブル

スタッズ・ターケルの『仕事(ワーキング)!』を読んでます)

シカゴの端にあるシセロの一角の二階建て。37歳。奥さんは近所のレストランにときどきアルバイト。男の子と女の子がいる。

おれは滅びつつある人種、肉体労働者だ。ずばり筋肉労働……あげたり、さげたり。一日四、五万ポンドの鉄鋼を扱う。

ピカソは絵を指さすことができる。俺はなにを指させるというのかね。作家は本を指差せる。誰もが、自分が指差せる仕事を持つべきなんだ。

20時間労働は現在じゃ可能なんだ。知識人たちは、かくれたるバイロン卿、ウォルト・ホイットマンルーズベルトピカソが、建設現場や製鋼所とかいろんな口上で働いているってことがありうると、いつも口にはする。しかし本気になって言ってるとは思えないね。むしろ知識人たちは、同じようにそういうところにいる、かくれたるヒットラースターリンを恐れてるんだ。権力についてる人間は、暇のある人間は怖いんだよ。いや合州国だけじゃない、ロシアだって同じだ。

それから、安全帽をかぶり、安全靴にはきかえ、安全眼鏡をかけて、ポンデライザーの前にいく。それが仕事場だ。鉄をかきあつめ、洗い、塗料溶液につけ、それから引き上げる。つけては、引き上げる。

七時に作業開始。腕は最初の半時間で疲れる。それからあとは疲れない。だいたい、その日の仕事が終わる半時間前まではな。朝七時から午後三時半まで働く。だから、腕は七時半と三時に疲れるってわけだ。

黒人インテリなんて敬意をはらわないよ。まして白人のインテリなんて屁のつっぱりにもなりゃしないさ。こっちがこきつかわれてるのに、その俺に、三百年も奴隷あつかいをされてきたとか金切り声をあげる黒人の活動家なんてくそくらえさ。俺が連中にいう返答はただひとつさ。ロックフェラーに会いに行けよ、ハリマンに会いな、俺にかまうな、ってことさ。俺たちは同じ綿畑でやってんだから。だからおせっかいはやめろってな。

家へ帰って、はじめの二十分間に、俺がなにをするか知ってるかい。まずつくり笑いさ。笑顔をするんだ。うちには三歳の子がいるんだ。その子が時々こういう、「とうちゃん、どこへ行ってたの?」ってね。俺は「仕事だよ」ってこたえる。たとえ気分が悪くても、それをガキにあたることはできない。ガキは、生まれたってこと以外はなにもわかってないんだからだ。女房にあたりちらすわけにもいかない。だからついつい酒場へ行くわけだ。

俺は月曜のことは考えないことにしてるんだ。日曜の晩、俺がなにを考えているか分かるかい? 次の日曜のことさ。人は仕事がほんとうにひどければひどいほど、永遠の休暇を夢見る。永遠の眠りなんかじゃあない。

これが『仕事!』のしょっぱなのインタビューの抜粋なんですけど、労働の本質のほとんどすべてを語ってて、もうこの本、これ以上読まなくてもいいですよねっつーくらいです。

パイロン卿もウォルト・ホイットマンも、詩人です。この方は結構、詩集とか好きなんですよねえ。これはちょっと読まないことには分かりません。特にホイットマンなんてのは、もうモロに、まさにアメリカ!って感じの大御所です。あと、ロックフェラーは有名ですが、ハリマンってのは銀行家です。

この本もまた訳語が「合州国」で統一されてるんですよね〜、なかなか翻訳サイドの香ばしさがいいですね。嫌いじゃありませんよ。