石工 カール・マリー・ベイツ

スタッズ・ターケルの『仕事(ワーキング)!』を読んでます)

彼は57歳。17歳から職人になる。三人の息子は誰も継いでいない。以下、抜粋です。

石とかレンガを積んでいる日はまったくごきげんなんだ。やりたくてやれば、なんでも飽きが来ない。石は重いから、重労働だよ。けれども、自分がやってることが面白くて、時間が足りないくらいだ。

俺が石工になったのは大恐慌の時だ。その頃は年季奉公の口もなかったよ。家を出て、ひとつでも働き口がみつかったら、それをやらなきゃあならなかった。まだほんのガキだったよ。

石は俺の人生なんだ。しょっちゅう空想にふけっているよ。石のことばかりさ。グリーン川のところに石の小屋を作ってやろうとか、台所に石の飾り棚を作ろうとかね。石のドアってのはすごく重いから、どうやって蝶番に乗せるのか分からないんだ。でも屋根を石にする計算はやったことがあるんだ。そんな空想ばかりしてる。俺の空想は、いつも石が入ってないといかんみたいだな。

外を歩いてて、俺が建てた家がそこらじゅうにある。そばを通る時はいつも眺めて通るんだ(笑)。今ここに座ってても、実際、頭の中には、あんたには信じられないくらいにたくさんの家が浮かんでくる。石をゆがんで積んだとすれば、それがどこだか忘れない。ずーっと覚えている。まあ、取り外してやり直さなけりゃいかんところがあれば覚えていて、30年経ってからも、石を取り外してやり直せるさ。いつまでたっても気になるね。そこに住んでいる人が気がつかなくても、俺には分かる。家の前を通って、そこを考えないことはないよ。今の今も、ある家のことを思い浮かべているんだ(笑)。

どうでしょうか。職人って素晴らしいっすね。彼によると、レンガ職人を2〜3年経験した後に石工になるらしいです。もっともこのインタビュー当時の70年代でも、跡継ぎがいないと言ってます。

石工とは芸術家とは違いますから、名前が残るわけではない。しかし彼の人生は石で満たされており、誇りがあり、充実していると言えそうです。彼の話にはお金の話がいっさい出てこない。つまり収入にはまったく不満がないのでしょう。

先に挙げた製鉄所労働者とは、まさに仕事の成果に対する意識でずいぶんと異なっています。大量生産のライン作業と職人の仕事の違い、それを考えることはまず最初の鍵でしょう。