『初ものがたり』を読みました

宮部みゆきさんの『初ものがたり』を読みました〜。

初ものがたり (新潮文庫)
宮部 みゆき
新潮社
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宮部さんの時代もの、『堪忍箱』から読み始めておりますが、こっちの捕物帳が本筋でしたかね。ご本人が深川生まれの江戸っ子だから、深川を舞台にした話を書くってのは自然なんでしょう。

一応は岡っ引きが主役で捕物帳の連載のようになっているんですが、読み進めているうちにキャラの造形が次第にはっきりしてくるのが面白いですね。物語が生き物になってるという感触があります。きっと手習いというか、手探りで始めたような連載が、どんどんノってきたー!って時に連載が終了したそうで、お話がぶつ切りになってるのが誠に残念です。文庫版のあとがきを読めば、連載再開の意図はあるそうなんですが、なかなかこの勢いのあった立ち位置には戻れないんじゃないかなーと思ったりしました。

物語の進行のために登場人物のセリフは現実の言葉から離れてしまうものなんですが、それを小説内の約束事として妥協できるかどうか。時代小説や歴史小説ファンでも意見の分かれるところだと思います。私は、時代モノの連載モノという点から、手頃な娯楽優先であるべしと考えます。ところが笹沢左保さんのような量産作家に較べると、ほんとに丁寧だなって思える部分が多々あるんですね。例えば読み手がこのキャラはこうあって欲しいなと思うところ、笹沢さんだと紋切りでティピカルな設定を被せてくる。それがよかった時代だったんですね。宮部さんだと、意図してるんでしょうけどちょっと遊びを残しているようなところがあって、物足りなさが逆に渇望感を呼び起こされるという、いい意味で読者たらしの上手な作家さんなんだなーと感じます。例えば、日道という霊視ができるという触れ込みの子供が怪我しているところの主人公との会話のシーン、まあよく時代もののドラマでも見かけたような場面なんですが、それでもベタにならないように細心の注意を払っているように思います。よくあるシーンと見せかけてベタまでいかない、ヒット&アウェイの連続によって、キャラが紋切り型に定まらないところが面白いんでしょうね。

そう考えると、『堪忍箱』でも「物語の筋としてはこう行くんだろうなと見せかけておいてスッと引いてみました」的な話が大部分を占めていることに気がつきました。読み手が強欲だからっていうのもあると思うんですけど、考えられていますねえ。一方で私なら「芝浜」みたいなベタを読んでもみたくなるという、まあ本当に勝手気ままですね読者の側ってのは。これからも勝手に読みます!