『ロレンス短編集(ちくま文庫)』を読みました

『ロレンス短編集(ちくま文庫)』を読みました〜。

ロレンス短篇集 (ちくま文庫)
井上 義夫
筑摩書房
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ロレンスみたいな天才がこの世にいたことが分かるってだけでも大事ですね。それ以上に、ロレンスみたいな天才と差しで会話ができるわけですから、やっぱ読書はするもんです。


ロレンスがどんだけ天才か! それが言えたらいいんだけど、難しいんですよねー。一度読んで、そして次に各短編をじっくりと読み解いていくと、あれもこれも、いろんな比喩や示唆やモチーフやらが見つかって、凡人としては感想文一行すら書くのに困ってしまいます。逆に、文芸批評っていうジャンルはロレンスのような大作家を対象にしないと成立しないもんなんだろうなと感じました。

訳編者の井上義夫さんの解説も気持ちがいいもんです。とことんロレンスにつきあう気になったなら、井上さんのロレンス評伝三部作も古書店で探さないといかんでしょうねえ。

ちょっとがんばって時間使って、以下にそれぞれの短編の短いあらすじを書いてみます。物語を追っても意味ないんでしょうけど。

次善の策

14歳の妹と23歳の姉がいる。姉は都会で男にふられて失意の帰郷。妹は戯れにもぐらを殺す。姉は最初いやがるんだが、そこに地元の農夫が現れる。この農夫が姉にとっての「次善の策」ってことです。姉と農夫はなんやかんやでもぐらの話でいい感じになる、と。姉はもぐらを殺して農夫に持っていく。これは姉にとっての出会いの口実作りというようにも見えるし、「ねえ、私にもぐらを殺してほしいの?」なんてのは性的にも読める。そんで最後は「死にそうな声で」農夫につきあってもいいわよって返事をするんだが、「その声には、しかし、ぞくぞくするような歓びが弾んでいた。」とのこと。

ステンドグラスの破片

牧師と私の会話があって、牧師が作っているという妄想小説を聞かされる、みたいな話。どんな話かというと、荘園の農奴が怒って主人の家に火をつけて逃亡して娘と会話する…みたいな話です。あまり意味は分かりません。

ストライキ手当

ある坑夫が組合の集まりでストライキ手当を貰って、その金でビール飲んでサッカー見に行く。途中で人が死ぬ。帰ってきたら姑にいびられて、うるさいからキレる。でも奥さんはいつもと同じ感じだったよ、みたいな話。

薔薇園の影

夫婦で旅行に来てるらしいんだが、奥さんにとっては思い出の場所らしい。そこの薔薇園で、昔の愛人に会うんだが、男のほうは気が狂っちゃってた、という話。

プロシア士官

従卒が大尉のパワハラでめっちゃめちゃいびられる。なんやかんやでどっちも最終的には死ぬんだけど、死にかけてからの描写がものすごい。

木馬に乗った少年

木馬に乗った少年が次々と競馬で当てまくって儲かったよ、という話。

最後の笑い

補聴器を持った女の家に警官が上がり込んで、女が変わります。

太陽

日光浴は体にいいということで、素っ裸で太陽を浴びる母と子。そこにスーツを来た父がやってくる。父と乳、っていうのは駄洒落。

アドルフ

父親が拾ってきたウサギ、その名前がアドルフ。

英国、わが英国(一九一五年版)

これだけ読むだけでも十分。此岸と彼岸の間の混濁した意識の表現だけでもう圧倒されました。夜にうなされそうな文章でした。