『命売ります』を読みました

三島由紀夫の『命売ります』を読みました〜。

命売ります (ちくま文庫)
三島 由紀夫
筑摩書房
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初出は「週刊プレーボーイ」昭和43年5月21日〜10月8日の連載だそうです。連載開始時は「サイケデリック冒険小説」というコピーがついていました。端的になんじゃそりゃっていう感じのコピーですけど、うまいこと言い当ててもいるかなという読後感です。

まずお話のスジとして、「これは全部サイケデリックなおクスリをやった人の妄想でしたーおしまい!」と言われても、まああり得るかなっていう感じでした。かといって破綻寸前の荒唐無稽というわけでもなく、しかし明らかに世界観はヨロヨロで、その辺の中途半端さがまさに「中間小説」って感じでしょうかね。

自殺を試みた主人公の羽仁男(この名前がひどいですね)が助かってしまい、命売りますという新聞広告を出してビジネスを始めるんですが、そこにいろんな依頼人が来ていろいろ起こるっていうスジです。むしろベタ過ぎはしないかと思ってしまう設定ですね。連載小説ですからね。最初の依頼で不様に死んでから、ずっと死の瀬戸際の目線で文章が続く…とかなんとか、ロレンスの『英国、わが英国』みたいなのも可能だったんでしょうけど、まあ連載小説ですから。

いろいろテレビで見た記憶のあるような当時の風景やなんか、例えば松田優作が主演のドラマかなんかのイメージを頭に置きながら、「それからそれからどうなるの?」とお話を追ってく分にはこの上なく楽しい時間を過ごせたんですが、さて、吸血鬼まで登場するこのお話を加工しても映像にはなりにくかろうなあと感じました。

こういう、ハナから映像化を拒否しているってわけでもないんだけど、文芸の映像への翻訳のしにくさってのが最近好きでして。昨今はなんでもかんでも映画化されるじゃないですか、あるいはその逆のノベライズだあとか。原作も映画も当然見た事すらないんですけど、要するに原作を軽く超えるレベルではなければ作ってはいかんのだ、と思ったりもしますけれども、それもこれも商売のためだってんならしかたないところですね。

いま思わず言ってしまいましたが、この「商売だからしかたない」ってところは大事ですね。ちょうど三島由紀夫にとってのこの作品みたいな。あるいはそれは、この作品の中の主人公「羽仁男」にも通じてきますね。モテる羽仁男は、女からの心中の誘いを拒否するんですね。命を買われたわけじゃないからって。かっこつけてんですが、そう主人公に言わせている三島もかっこつけて死にましたからねえ。

なにしろ有名な自死を選んだ作家さんでこのタイトルですから、期待もしちゃいますが、逆にこの作風の軽さは気になるところ。でも、確か太宰治の絶筆も『グッドバイ』という意味深なタイトルなのに、似合わないほどやたら通俗的な作品だったし、死に際に通俗を我が身に引き寄せようという行動は、自殺するような自意識過剰な人に共通しているのかもしれません。