『蒼龍』を読みました

山本一力さんの『蒼龍』を読みました〜。

蒼龍 (文春文庫)
蒼龍 (文春文庫)
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山本 一力
文藝春秋
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借金返済のために賞レースに作品を投稿しまくっていた山本一力さんのエピソードはすでに知っていましたが、その肝心の受賞作品を読んでなかったんすよね。この作品は山本さんが初めて受賞した表題作をはじめ、その作家稼業をやり出した頃の短編が全部で5つ載ってます。

一度「面白い!」と思った作家さんの作品というのは、身びいきしちゃって、どれを見ても面白いと思ってしまうものなんですが、そこが版元の思う壷。冷静になってデビュー直後のやデビュー前の作品を読んでみると、やっぱりちょっと「若い、痛い、青い」という部分は多いもんです。ただしそのことが「悪い」とは微塵も思いませんけれども。そもそもあんまりそういう情報を元にして読むこと自体が読み方として下世話っていうのか、ホントはこの本を選んで読むところまで行き着いたきっかけがあったってことが大事なんであって、結局は山本一力ファンなのだってことなんです。以下作品ごとに。

のぼりうなぎ

武家社会をサラリーマン社会に喩えたようなお話って結構ありますけど、町民社会でもそんなことってあったのかもしれないなっていうお話です。キャリアを捨てて転職する立場のハードさがまともに描かれています。大変ですなあって思いながら読みましたが、大工から呉服商への転職っていうしこたま無理な設定を持ち出してて、江戸時代のキャリアってもう丁稚の小僧の頃から始まってるんですから、そんな簡単に転職はないんじゃないかなあ、などと思ってしまいますが、最後には、ああこんなこともあったかもしれないなって気がしてくる描写はさすがやなあと感じました。初心を忘れたダメな老舗って、今もあるんだから、昔も当然あったんでしょうなあ。

節分かれ

こちらは現代に喩えたら、大手ビール会社の営業をイメージしました。大店(おおだな)の話って、たいてい東洋経済ガイアの夜明けかってお話になってしまいますが、これも大きな灘の酒の卸商のお話でしたがその法則は覆っていません。こういう商家の経営センスを物語にできる人ってオトナだよなあといつも思ってしまいます。

菜の花かんざし

これも変わったお話ですねー。どちらかというと子供の進路でもめる夫婦喧嘩を見せられた感じがします。武士の嫁がこれだけ言いたい放題できたかどうかはまた微妙な感じなんですが、そんなのあんまり気にしないっていうんであればアリなんでしょうかねえ。

長い串

高知出身の山本さんの、土佐びいきのお話。おでんについては掛川と土佐のおでんが共通してるのはヘエーと思いました。おでんが取り持つ縁が効いてくるんですねえ。大井川の川留めの話が出てきます。

蒼龍

なんだかんだ言ってもこの作品の勢いってのは、他の4作品に比べてもタダモノではありません。受賞したのもうなずけますよねこれ。女房のキャラがどうしても談志の芝浜と被ってしまいました。こんないい女房っていいなあ、俺もいい女房欲しいわー、って思いました。