『林檎の樹』を読みました

ジョン・ゴールズワージーの『林檎の樹』を読みました〜。

林檎の樹 (新潮文庫)
林檎の樹 (新潮文庫)
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ゴールズワージー
新潮社
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面白かった〜ですよ。超有名な作品で映画にもなってるんですかーそうでしたか。恐れ入りました。大体こんなあらすじでした。

主人公アシャーストは、六本木のキャバクラにもよく行くサラリーマン。たまたま営業先で立川のキャバクラに行ったところ、フリーで柏木由紀がいて、すっかり一目惚れしてしまいます。お互いに意気投合して携帯番号も交換し、翌日の同伴出勤&アフターを約束しました。

明くる日、アシャーストは立川に向かうために大江戸線で新宿に降りました。新宿で降りて、わざわざキャッシングまでしてお金を用意しました。なにしろ柏木由紀との同伴&アフターですからねえ。すると駅の構内で「あら〜アシャーストさん!」と声をかける女が。見ると、六本木の店にいた篠田麻里子ではありませんか。「どうしてたの元気? ワタシ歌舞伎町の系列店に移ったんだ〜」と言います。ちなみに六本木の本店では篠田麻里子はナンバースリーでした。

「急いでないなら今からお店に来ない? オープン記念だから1時間3000円だよ!」「いやでも…」迷いました。確かに同伴&アフターでは相当高くつきます。いや、俺は昨日約束したじゃないか。キャバクラの値段につられるなんてそんな悪人なのか俺は…アシャーストの自問は絶えません。

「なんで?ワタシのこと嫌い?」と篠田麻理子が甘えるように言います。う〜ん、と悩んだあげく、結局アシャーストは歌舞伎町の店に行きました。オープン日なのでお店は大盛り上がり。アシャーストの席には、篠田麻理子の他に板野友美渡辺麻友がついてくれて、夢のような時間を過ごしました。いやーやっぱり立川より歌舞伎町の方がいいなー都会だしな、とアシャーストは、柏木由紀のことを一瞬でも思い出さないためにも、一晩中飲んではしゃぎましたとさ。

ああ。放ったらかしにされた可哀想な柏木由紀よ!おしまい!

…という感じです。いやホント、結構お話としてはこれに近いんですってマジで。

読んでいる最中はゴールズワージーの文章の抒情に十分に浸れて最高に楽しいひとときを過ごせました。この短さがまたティータイムにちょうどいいというか、イギリス人の気分です。しかし、英国の上流階級、ひまを持て余した大学生、運動も得意だし文学にも親しんでいる、そんな主人公の問題を、自分のことのように引き寄せるのはどうも無理な相談だな、と読後にハッと気づいて、こんなキャバクラAKB編のあらすじを考えてみた次第です。

こうして一歩引いて考えてみると、アシャーストの身勝手さだけが目立ちますねえ。まるでダメ男じゃん、と。そこがまさにゴールズワージーの作為なんでしょう。実際、アシャーストはダメ男ではないのですよ当時の英国では。なぜなら階級社会ですから。解説で知ったんですが、ゴールズワージー自身も上流階級出身であり、下層階級をテーマにしていろいろ書いたものの、物語としてはどうも違うだろってのが当時はあったらしいですね。抒情が強い文章も上流ゆえだったのかもしれません。同じ時代には父親が炭坑夫という天才D.H.ロレンスもいたことですし、なにやらこの時代の英国は面白そうだぞーって感じます。英国文学を掘るならこの時代ってことなんでしょうかね。

検索して発見したんですが、さすが往時の巨匠といいますか、ゴールズワージーはこの作品のみいろんな和訳版が出ているんで、機会があったら読み比べてみようと思いました。今回読んだのは新潮文庫で訳者は渡辺万里さん、装丁画は大高郁子さん。

それからあらすじ書いてみて気がついたんですが、水商売ってのは青春ごっこだったんすね。「林檎の木」ってスナック、どっかにありそうだし。