『生きるとは、自分の物語をつくること』を読みました

小川洋子さんと河合隼雄さんの対談『生きるとは、自分の物語をつくること』を読みました〜。

生きるとは、自分の物語をつくること (新潮文庫)
小川 洋子 河合 隼雄
新潮社
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これは素晴らしい出会いだなと読んでて思ったんです。出会いってのはその、小川さんと河合さんという意味もありますが、私とこの薄い文庫本の出会いという意味でもあります。『博士の愛した数式』を河合さんが読んでとても気に入ってたそうですよという話から、本書の対談が実現されたそうです。週刊新潮が出会いの最初だったんでしょうかね。この本読む前に『博士の愛した数式』を読んでてよかったです。河合さんが亡くなる前に、小川さんと会っててよかったですね。

それにしても河合隼雄さんってどうしていつも示唆に富むんでしょうねえ。自分の考えていること興味のあること、そういったものにいつも何かしら示唆を与えてくれる、もちろん河合さんは神様ではないから、一言一句漏らさず大事ってなわけでもなくて、結構おっさん的な無駄話やつまらん駄洒落も挟みつつ、それでも人の心に関わる話にスッと入った時に、(ああそうだな)とか(そうなのか)とか、肯定でもないけれど決して否定的ではない思いが自分の心に沁みるっていう、そんな不思議な人です。だから「河合節」って感じじゃない。しかもご本人が話されていることとはまったく違う、あの本だったりあの映画だったり、あるいはあの風景だったりを心の中で思い出しちゃったりしてしまう、させてしまうんですね。私はナバホの本でまずやられて、それから中年をテーマにした書評本でもやられて、そしてこの本でしょ、当たりが多いんですよ、河合隼雄さんの本は。

それから小川洋子さん。私はまだ『博士の〜』一冊きりしか読んでないのですが、なんかホントに素敵な、誠実な方なんすね〜。芥川賞の凄さは、私にはほとんど想像もつきませんが、小川さんがアレを受賞されたのが20代の半ばだったことを考えると、相当にいろんなところでいろんな形で闘ってきたんでしょう。なんとなく文芸とか文壇とかの世界だからプロレスラーみたいなもんのイメージがあって、あれこれ発言したり書いたりするのもすべて自分や周りがコントロールしなければならない立場にいきなりなっちゃったら、やっぱり夢の作家生活だの印税ガッポリだの以前にツラい部分の方が多かったんだろうなあと。そんな小川さんが、やっぱり読み手と同じように、河合さんにいろんな示唆を受けている様子が「あとがき」で窺い知れます。「なぜ小説を書くのか」という小川さんの自分の中の問いに対して、河合さんと話してスッと答えを出せたことの稀少さは、なんか私も読んでて素直に嬉しく思いました。

いい加減に、小川さんの本もせっせこ読まねえとなあ…参った。読む本いっぱいあって困りますね。できることなら、小川さんの「河合隼雄以後」の物語を読んでみたいと思いました。