『未来への記憶―自伝の試み』を読みました

河合隼雄さんの『未来への記憶―自伝の試み』上下巻を読みました〜。

未来への記憶〈上〉―自伝の試み (岩波新書)
河合 隼雄
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未来への記憶―自伝の試み〈下〉 (岩波新書)
河合 隼雄
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自伝と一口に言ってもいろいろ形式がありますが、これはツラツラと河合さんが振り返って話したことを文字に起こしたような印象です。新書で上下巻に分けた意味も含めて、なんだか版元さんの商売っ気のイヤーな感じが伝わってきますけれども、それと本の内容自体はまったく関係ありません。

いやあ、面白かったです。ちょっと検索してびっくりしちゃったんですけど、河合さんは1928年6月生まれで、須賀敦子さんは1929年1月生まれで、うわー学年は一緒ってことですか。河合さんの幼少時代から大学、そして留学するあたりの上巻の感触が、須賀さんの『ヴェネツィアの宿』ととてもよく似ていたので、もしやと思って検索したんです。まさか同学年だとは。恐れ入りました。

河合さんと須賀さんの著作を比べてみて、どういう感触が似ていたかというと、なんといっても戦争した国、日本への失望というか、軍国的なことへの嫌悪感、それに対する西欧への憧れ、それからとりあえずめっちゃめちゃに勉強していた学生時代という点、外国へ行くことの当時の大変さ、とかですねえ。ただ、なんとか頑張って外国へ行ったというこの世代の人の自伝となれば、大体似たような印象になってしまうのかもしれません。

羨ましいなと思うこともあります。環境はいろいろあるにせよ、敗戦という事態を越えて、何が何でも勉強しなければならないというモチベーションが生まれたのは、どう考えても時代によるものでしょう。それだけ勉強に打ち込めるのは今ではちょっと適わない。羨ましい限りです。ってこれは今年41歳の自分が学生時代に勉強しなかったという言い訳にもなってしまいますけどね。

さて河合さんの半生ですけれども、本当におもしろい人ですねー。とにかく何を見ても、誰と会っても、感激することが多いんですね。こんなに感激してる人生はずいぶんお得です。どうやったらここまでいろいろ感激できるのか、その秘訣を知りたいものです。音楽を聴いたり絵を見たり、芸術に感激するというのはまだ分かるんですが、河合さんの場合は、なんでもない人との会話の中でも感激しているんですよね。そりゃアメリカの大学にも、またユング研究所にも、すごい人がいっぱい集まっているでしょうから、感激したりハッと気付かされたりすることもしばしばあるのだろうな、とは思いません。これは、私みたいなチャランポランに生活している者でも十分に感激する機会があるのだろうな、と思わせるように河合さんは語っている、ように思いました。あるいはこの本のために、感激したところを抜粋して並べて話しているということはあり得るかもしれません。いずれにしても、私はこれだけ感激する機会を大事にするような人になりたいと思いました。

ってなんだそりゃ、って感想ですね、我ながらw。興味深い話は多々ありますけれども、大体が心理療法の話になってまして、正味の河合さんという人はそれだけ学問とか実践のほうにググッと体を突っ込んでいるのだなと、他の著作で見られるオモロイオッサンという印象とは違う感じも受けました。あとニジンスキーの奥さんの話が強烈でしたよ〜。