『快読シェイクスピア 増補版』を読みました

河合隼雄さん、松岡和子さんによる『快読シェイクスピア 増補版』を読みました〜。

快読シェイクスピア 増補版 (ちくま文庫)
河合 隼雄 松岡 和子
筑摩書房
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エントリーだけを見ると、なんか立て続けにイギリス関連の本を読んでいるような感じがしますけれども、決してそんなことはありません。いま12冊同時に読んでますんで、相変わらず訳わかりません。

基本的には河合隼雄センセつながりで読んだんですけど、ただこの本を手にしたきっかけというのは、「ハムレット」の戯曲は実は巧妙にスコットランド女王メアリ・スチュワートとその息子ジェームス6世(1世)の風刺をしているのだとする説があることを知りまして、それでシェイクスピアが頭のどこかにインプットしていたからだと思います。

とかなんとか言っておきながら、私はシェイクスピアのシェの字も知りません。そんな私にも、本書はとても親切な構成になっておりまして、手を合わせて拝みたいくらいに分かりやすくありがたい本でした。

シェイクスピアの専門家である松岡和子さんが、敬愛する河合センセに全力で質問をぶつけて、シェイクスピアの戯曲をさまざまな角度から深読みしてみました〜、といった内容です。めちゃくちゃ面白いです。

あの、私いま、こんな感じで軽く書いてしまいましたが、はっきりいってシェの字も知らない私としては、その内容を吟味する能力はまったくないんです。まったくないけれども、ただ、何冊か河合先生の本を読んでいるというところから感想を書きますと、この松岡和子さんという方は、なんて強欲で、大食漢だなあと、ちょっと恐ろしく思いました。本当に河合先生のことが大好きだってのが伝わります。下調べを十分すぎるほどにして、あれも聞きたいこれも聞きたいと、松岡さんいわく「クレー射撃に投げるカワラケ」のように質問をぶつけてて、いつものように駄洒落を混ぜながら、ぼんやりと話をふわふわさせながら相手の心を開かせていく河合先生を、首に縄をつける感じであっちこっちといろんな場所に引っ張っているんですね。それに合わせるように河合先生もポンポンと忙しくついていくという感じで、こんな河合先生は初めて読んだ気がします。これは強烈でした。

もっとも、対談本というのは、テープ起こしした文章からバッサバッサと編集していくものなので、実際の現場とは違ってくることがほとんどですけど、本書に関して言えば、対談の現場の興奮がそのままパッケージされているような、なんだかおっさんとおばさんがめっちゃ面白そうな話を一生懸命してて、とってもうらやましいなっていう感じがしました。二回言いますけど、これは本当にうらやましいことです。きっと編集者も、楽でオイシイ仕事だったんじゃないかなって気がします。

深読みの内容については私がシェの字を知ってからにするとして、松岡和子さんの凄さがにじみ出ていたのは、なんといってもオフィーリア松たか子ハムレット真田広之との会話から得られた話の部分でしょう。この時松岡さんが発見したことの重大さが、非常によく伝わっています。これは感激しました。演劇というのは本当に奥が深いんだな、と。それと同時に、シェイクスピアの戯曲というものには、演劇人がそれと気づくような装置がいっぱい埋め込まれていることに驚きました。

松岡さんって、英語はもちろん、本当に演劇が好きな人なんだろうなと思いました。考えて見たら、演劇人ってのは強欲で大食漢なんですよね。創作とか表現芸術の中では、もっとも強欲ではないかと思います。演じられるものならすべて演じ尽くしたい、そういうパワーがないと演劇は続けられないのではないかなと想像します。

だからというわけではないのですが、とりあえず松岡さんの訳したシェイクスピアの戯曲を非常に読みたくてウズウズしているのですけれども、まずは芝居を先に見たほうがいいだろう、と思っております。もちろん世界のニナガワ演出で。今年は「アントニーとクレオパトラ」ですなあ。

最後に、増補版の松岡さんのあとがき、泣けましたね。河合隼雄さんのことを今から知れば知るほど、お亡くなりになったことがなんとも言えず、ただ悲しいことと感じます。