『長屋の富』を読みました

立川談四楼さんの『長屋の富』を読みました〜。

長屋の富
長屋の富
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立川 談四楼
筑摩書房
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今この感想を書くにあたって気がついたんですが、ずっとタイトルを『宿屋の富』と思ってました。読んでる時に気づけよっていうね。長屋住まいで博打好きの男が富くじ一等賞当たりました〜さあどうなる?っていう話です。「BIG6億円が当たったらどうする?」って話は誰でも一度は考えるでしょう、アレです。

落語の要素をいっぱい詰め込んだお話です。それほど落語知ってる方でもない私でも、いろんな噺のくだりが登場してきたのが分かり、落語のエッセンスがグッと濃く詰まっています。多分このくれえの話なら、談四楼さんは、ツラっと書けるんでしょうねえ。さすがです。それでいて、最後の最後は、ちょっとばかし現代的なオチだなあという気もしました。

貧乏長屋が主な舞台となってまして、地の文がひとつもなく、すべて人物の会話でお話が進む形式。改めて落語すごいなって思ったのは人物配置です。「大家といえば親も同然」だったり、長屋住まいの侍がジョーカーだったり与太郎の心がキレイだったり、隣のかみさんが世話好きだったりっていう。長屋というのはそれでひとつの世界となっているんですよね。そういう居住空間は現代の日本には消滅したかもしれませんが、その長屋ワールドの良さを再現させようとしている人もいることでしょう。面白そうだとは思うんですが、いいのか悪いのかこの年齢になっても私はイマイチ判断できません。

震災後、「絆」とか「つながり」とか簡単に言いますけれどもね、長屋はまず前提として、全員が一様に弱者でなければならないってことですからねえ、あんまりいいもんでもないかもしれないです。強者の立場で弱者を救うというのは、弱者からすればたまったもんじゃないと、河合隼雄先生も言ってたなーどの本か忘れたけど。富くじ当たったようなヤツは、いずれは長屋を出て行かなければならなくなるわけです。貧しく暮らせばいいっていう話ではなくて、長屋の他の住人に悪い影響が出てくる、と、ここの大家さんも話しています。他の住人も、別にやっかむわけではないのだけれど、どこかでこびへつらってしまう、それが分かってしまう自分がイヤになる、という。だから金持ちはどっかよそに行っとくれ、となるわけです。

そういうわけで、私の周りに金持ちがいない、というのも腑に落ちたのでした。

あとこの本、装丁がかわいいですね。南伸坊さんのイラストです。