『エル・カンタンテ 熱情のサルサ』を観ました

レオン・イチャソ監督の『エル・カンタンテ 熱情のサルサ』を観ました〜。

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この映画観るためには予備知識がいるかもしれません。少なくともプエルトリコの位置、サルサという音楽、それからファニアというレーベルについては知っておく必要があるかと思います。まあ、わざわざこの映画を観ようとする人は大抵ご存知かと思います。仮にジェニロペが大好きだという人だって、『セレナ』という映画を観たことはあるでしょうから、このテの伝記モノはお分かりでしょう。いずれにしてもこの映画は、何も予備知識のない人に向けてはいるんですが、それでも予備知識は要するという、よくあるアレです。音楽産業が絡む話ってどうしてもマニアックになりがちです。

しっかしまあ、ホントによくこんな映画を作ったもんだと感心します。というのも、映画制作なんて尋常じゃない金がかかるし、売れるか売れないかのラインは必ず超えてタニマチを説得しなきゃらならないもんだろうし、であるからポシャることなく世の中に出ている映画はすべてそのラインを超えて出されているもんだという事実に気づいて、改めて驚かされます。もちろんジェニロペは『セレナ』の経験もあるからある程度の見積りはできることでしょうけれども、しかしねえ、エクトル・ラボーの生涯を取り上げるなんざ、すごく渋いじゃないですかーって思っちゃうのは私だけでしょうか? そりゃあ宣伝文句であるから「サルサの巨人」とは書かれているし、ヒット曲も多数、ウィリー・コロンとの悪党コンビでもソロでもたくさんアルバム出してますが、80年代のサルサ人気の後退とともに、フェードアウトした人との印象もあるんで、彼自身の人生にどれだけ共感できるか、という点で考えたら、なかなかこれを映画には…ってところだと思うんです。それでも本作は非常に工夫されておりまして、ジェニファー・ロペス演じるエクトルの妻プチが語り手になり、往時を振り返るという構成で、さらには『ドリームガールズ』や『キャデラック・レコード』のように音楽産業とリンクさせた盛衰に重点を置くのではなくて、エクトルの家庭に焦点を絞っているんですね。ここにも感心してしまいました。

ただ、栄光を極めた人が麻薬で没落していく…こんなのはお話としてはよくある展開だもんで、その点については駄作だったと思います。父母が同様にコカインやってる家庭なんて確かにヤバいけど、「ダメ、絶対」的な映像効果には安いな〜と感じました。救われたのはさすがジェニファー・ロペスと言うべきか、音楽の現場に入ってくるプチの愚妻、悪妻ぶりは、しかしいざプチの立場に立ってみたら、それは一方からのみの価値観であることに気付かされるというところです。マーク・アンソニーはエクトル・ラボーにそっくりだし、本職であるから唄も素晴らしい、特に今までそれとは知らずに聞いていたいろんな名曲の歌詞が、エクトル自身の人生とリンクしていたことを知るのは、サルサ音楽のファンとしては大変意義のある嬉しい映画でしたが、しかしマーク・アンソニーではなかなかエクトルの心の闇を伝えきることはできなかったんじゃないかなって気がします。残念な演技でした。

それでもこの映画を撮ろうとした動機は十分に理解できました。『エバン・オールマイティ』観た時によく分からなかったのは、なんで「ノアの方舟」を撮ろうとしたという点だということにも気づきました。観る側が共感できるのは、撮る側の動機であると、いい映画だって思う時ってのはそういう共感の成分が多いのだってことですね。