『ヘルプ 心がつなぐストーリー』を観ました

テイト・テイラー監督の『ヘルプ 心がつなぐストーリー』を観ました〜。

公民権運動という歴史の重さをアメリカ人は自負してて、このテーマの映画は評価が高くなる傾向があるようです。原作があるそうですね〜あるんだろうなと思って観てました。メイドの証言によって書かれた小説が売れまくってなんかしら社会を変えるのだ!という直線的なお話だとばかり思っていたんですが、さすがにそんなことにはならず、いろんな人物の要素が曲線的に絡んできて、大きなストーリーのうねりとは言わずとも、あちこちに小波を立ててポイントを稼いでいたような気がします。見ていて飽きず心地よい分だけ、あまり大きなモノは残らなかったとも言えます。まあこの手の映画は他にもいっぱいあるのでそこはしょーがない。なんでもかんでも手放しで感動した!とはならないっすよそりゃあ。

60年代のアメリカ南部、この場合はミシシッピ州ジャクソンですが(ジョニー・キャッシュの歌がハマる風景ですね)、その当時を再現した作り込みを観るのも楽しみのひとつです。正しいのか間違いなのかは知る術もないんですが、私は『ボビー』の美術制作とヘアメイクがこれまでのナンバーワンだと思っているので、同じ時代の設定となれば注目もしてしまいます。心地よかったのはアメリカ南部料理のエヅラでした。やっぱり南部は料理ですね。人に会いに行く際に手作りのパイを持ってくところや、そこそこ出てくる通販で買ったとおぼしき当時の最新の家電もメイド映画ならでは。考えてみたら、別に興味がないのに料理や家電やキッチンに注目してしまっているのも面白いですね。やはり観ながらメイドの世界に入り込んでいるってことですなあ。


キャスティング的に面白かったところはいろいろありまして、まずはエマ・ストーンの違和感です。これ違和感って書いてますけど褒め言葉ですよ。途中までなんでこんなに違和感があるんだろうと思ってたら、縮れ毛だったからなんですね。途中でお母さんのアリソン・ジャネイが「縮毛矯正器」なるものを娘のために取り寄せるシーンで気がつきました。いかにもアメリカ南部のご婦人の中に、縮れ毛ダミ声ちょいブスのエマ・ストーンがいると、どうしても60年代じゃなくて現代だよねって気がしてしまいますが、そこが本作品のオリジナリティが現れていてよかったと思います。


エマ・ストーンは最高ですが、ブライス・ダラス・ハワードが『50/50』に続いてまたもや差別主義者でクソ喰らいの汚れ役とは! この人もまた最高ですね、あからさまなワルい顔しててたまらんです。そしてブライスとエマ、そしてアリソン・ジャネイの3人が、南部独特のフロントポーチで口喧嘩して絡むシーンは、なんかもう手を叩いて喜んじゃうほどでした。3人とも今の感覚の役者さんで、このシークエンスだけまるで設定が現代であるかのような感じを受けました。それにしてもアリソン・ジャネイは『ジュノ』でもお母さん役だったんですよねえ。


もうひとりの主演のヴィオラ・デイヴィス、私は初見でした。いっぱい出てるのにねえ。どうしても助演女優賞を獲ったオクタヴィア・スペンサーに目がいってしまいます。『奇人たちの晩餐会』で奇人のひとりとして出演していたほどに顔に個性がある女優です。二人のメイドの、台所での雇い主をちょっと批判する会話がとても味がありましたねー。

映画の性格上、どうしてもエヅラは白人側、黒人側に分かれてしまうんですが、メイドのひとりが逮捕されるシーンなんてのもユルくて、それほど重苦しい描写もなく楽しめました。その分、黒人が撃たれた事件でバスを降りて行くシーンや、それからケネディ大統領の葬儀のテレビを観ているシーンが、何か社会全体が変わっていきそうな雰囲気を出していて緊迫しましたねえ。ここは上手だなーって思いました。