『キッズ・オールライト』を観ました

リサ・チョロデンコ監督の『キッズ・オールライト』を観ました〜。

なるほどぉ〜、これは面白いし、とても新しい映画ですね。

レズビアン同士の夫婦がアメリカ全体でどんだけ一般的なのかは分かりませんが、まあいるところには普通にいるんでしょう。そして普通に子ども二人を育てて、普通の家庭としてやっていける、そういう場所があるところにはあるわけです。とりあえずこの事実から受け入れないと、なんでそんな家庭が普通に暮らせるんだって部分で止まってしまいます。この映画も、レズビアン同士の家庭なんですよってのを、特に説明もなく一気にまくし立ててくるので、こちらも「おっ」と思いながらも身を乗り出してついて行くことになります。まずその前フリの提示の仕方がとても新しかったと思います。

で、通常はレズビアンの家庭にそれほど問題がないことを確認した上で、大きな問題が出てきます。18歳になった娘さんが、自分の父親を知りたいと思い立ち、精子提供者にコンタクトを取ります。娘さんは18歳で弟さんは15歳、どちらもそりゃあね、思春期の難しい年頃でしょうから、まあそういう成り行きにもなりましょう。その精子提供者ってのが、独身の中年男でレストランを経営しながら若い娘とホイホイ遊んでバイク乗り回しているカッコいい男。この男が現れてから家庭が危機に直面する…って感じのお話です。実にうまくできてます。

まず二人のママですが、ジュリアン・ムーアが多分母親的なママで、アネット・ベニング父親的なママ、下世話に言えばそれぞれネコとタチってことになるのかな? この二人のレズ感がよかったんですよねえ〜。長く一緒に暮らした中年のレズ夫婦っていう。想像なんですけど、同性愛のカップルって、ノンケのカップル以上に、セクシュアリティとは切っても切れない関係なんだろうなと。そういうお互いの意識によって、普通のノンケの夫婦の倦怠期とは一味違う関係が成り立っているように見せた二人のママの演技、あるいは演出には、拍手を送りたいです。知らなきゃできないし、知っててもできないことです。大体、自分たちの息子をゲイかどうか気にするってのは、なかなか思いつかないです。

そういう意味では、例えば普通の食事のシーンなんかで、二人の子どもたちがママたちを気遣う意識も、ああ〜ホントのレズビアン家庭みたいだなって思いました、いや実際は知らんのですけどね。「普通の家庭に生まれたかったウワーン」ってお子さんももしかしたらいるかもしれないですが、この家族はとても円満に、立派に平和に暮らしております。周りの友だちも実に普通に付き合ってくれています。なんつっても娘さん役のミア・ワシコウスカがマジかわいいッスけど、その他の若い衆の役者もみなよかった、ここでは省きますが。精子提供者にはマーク・ラファーロっていうキャスティングも調子よかったです。

これねえ、レズビアンならではのっていうより、中年の焼けぼっくりに火が付くクダリがとても好きでした。要するにジュリアン・ムーアとマーク・ラファーロがくっついちゃうんですけどね。ジュリアン・ムーアって人は裸を惜しまない、偉い女優さんですが、この人ならではのガツガツした性欲演技、真に迫っているのにあくまでコメディってのが気に入りました。

そんでまあ、最後はタイトルどおりにオールライト、じんわりと家族の愛やらなんちゃらが描かれます。いい脚本だなあーってしみじみ思う、キレイな収束です。もしこれが男同士のカップルの家庭の話であったなら…誰が演じたとしても、なんだか収拾つかないコメディになりそうな予感がします。そういう意味でも、この映画はいい守備を見せてくれた感じがします。

あと音楽。ジョニ・ミッチェルを絡めた食事シーンがセンス良かったなーって思います。あとエンドクレジットの曲も。