『ハイ・フィデリティ』を観ました

スティーヴン・フリアーズ監督の『ハイ・フィデリティ』を観ました〜。

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映画冒頭から13th Floor Elevatorsが流れたもんでオオっと前のめり。特にレコード店のシーンは音楽通、というより音楽「痛」が前のめりになって見入ってしまう仕掛けがあちこちにあり、並んでいるジャケットなど小道具についてもイチイチ解説してくれるエントリーもありそうですね。検索してませんけどね。というのも、実際の映画は私を含めた音楽痛どもが主演のジョン・キューザックに自己投影して、なんともイヤな気分になるものでした。なんだろうなあ、このオンガクという魔物は。ずっと考えていたんですけど、最近はトンとご無沙汰、忘れかけてしまいました。90年代半ばの設定なんでしょうね、レコード店もアナログからカセットからCDまで揃い、音楽好きの連中の醜くい熱がみなぎっているようなお店の雰囲気、テープ作りに命を懸けるステレオセット、もうなんていうか、恥ずかしくていたたまれません。主人公本人がゆっくりした自殺だのとほのめかしているんだもの、店員のジャック・ブラックにせよトッド・ルイーゾにせよ、もうやめてくれ〜と叫びたくなりました…なーんつって、私はそこまで病的じゃないですけどね。なにしろ主人公は、雨の中でずぶ濡れになるのが好きな自己愛野郎ですから、あまり自己投影して見るのもなんだなあという感じです。

この映画が公開された2000年の時点では、「彼らに栄光あれ、音楽バンザイ!」と言う素敵な感想文を書けたかもしれませんけど、エンスーはやはりエンスー、世を顰むしかない現状をまざまざと見せつけられたのがゼロ年代の景気後退であり、ああ〜この手の人々が平和に長く暮らすことができるような音楽業界であればよかったなあ、と現時点では思う次第です。もったいない。音楽業界は、実にもったいないことをした、と思います。なんてまあ悲観的な立ち位置で話すよりも、現状でも現場の熱は確実にあるし、この映画のようなシーンもまだまだ存在するんだぜ、と思っておきたいものです、これイチ音楽ファンとしては切に。

それにしても、ジャック・ブラックとトッド・ルイーゾ、それからジョン・キューザック、この3人の醸し出すエンスーの輪、実に面白いですね。キャスティングが光り輝いております。こんなレコード店があったらいいな、ではなくて、これこそがレコード店であるべきだ、という感じ。すなわち、誰にも文句は言わせない、最高ランクのキャスティングだと感じます。あまりにもレコード店のシーンがよかったので、お話全体の方、つまりジョン・キューザックと昔の彼女たち、と今の彼女、との別れただの付き合うだのという話がフワフワしてて、あまり入ってきませんでした。こちらのほうこそが本作の重要なテーマだというのにねえ。私が思うに、世の中というのは、それほど音楽を中心にして回っていないわけであります。かといって、音楽なしでは生きていけない、とは言っていられない。結局、本作品で描かれている音楽の効用ってのは、それぞれが感じ入ること以上に、それぞれの恋の道具としてしかあんまり機能してないんですよね、この感じが実によかったです。

なんだかロンドン臭い話だなあと思ってたら、原作がロンドンだったんですね。どうもジャック・ブラックという人、あるいはジョン・キューザックジョーン・キューザックという人が出てくると、アメリカンな感じから離れるような気がします。それは『スクール・オブ・ロック』でも感じました。ロックを織り交ぜた映画でこういった現象が起こるのは、それなりにロックがイギリス発祥であるよというリスペクトを制作者サイドが持っているかどうかってところかと思うんです。本作に関しては原作がロンドンを舞台にしていたのでこうなったわけですが、私はド頭に、ブリティッシュ・インヴェイジョンに強く影響を受けたテキサスのサイケデリック・ロックのバンド、13th Floor Elevatorsを持ってきたことが、リスペクトを巧みに表現していると感じました。その上で、ボブ・ディランであり、ジョニー・キャッシュであり、さらにはBOSSのカメオ出演であり、という流れ、イヤミがなくてホントいいですね。このイヤミのなさも英国感ありますね。

詰め込まれた脚本もすごかったです。一瞬たりとも見逃せないほどの情報量、とにかくセリフがツメツメ。カメラ目線でのセリフは別になあんとも思いませんでしたが、それでもしこたまジョン・キューザックの演技を見せられて満腹です。しばらく見なくていいやってぐらい。あと、ジョーン・キューザックはやっぱり面白いですなあ。

当然ながら、使われている音楽もヨカッタ。です。

ハイ・フィデリティ
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