『ヤギと男と男と壁と』を観ました

グラント・ヘスロヴ監督の『ヤギと男と男と壁と』を観ました〜。

グラント・へスロヴ「監督」の手腕を比較しようがないんですが、役者としても脚本家としても世間様に認められており、プロダクションを共同経営してる関係からジョージ・クルーニーとのカラミが多い人です。私は改めてこの人の異能ぶりに目を見張ってしまいました。何がツボだったかというと、人間が起こした奇行のうち、20世紀の歴史上最大のネタは「アメリカ軍」と「ニューエイジ」ですよと言いたげな、絶妙な組み合わせです。この異常な脚本はピーター・ストローハンによるものです。脚本もイケてるけれども、それ以上に撮られた絵が異常だなーと、その上能力者役のジョージ・クルーニーがさらに異常なキャラクターで、みんなすごいけれども、こういう場合結論づけるなら監督が一番異常なんだろうな、と思っています。んー、巡り巡ってジョン・ロンスンの原作が異常だとも言えますけれども。これ、読みたくなっちゃいますねえ。

んで、何はともあれ映画として見たときの、アイロニカルな立ち位置が、とてもアメリカ映画っぽいとは思えないと思ったら、制作会社はBBCフィルム、というのと関係してるんでしょうかね。ではなくて、これもまた原作者ジョン・ロンスンの英国的なアイロニーがにじみ出ているってことなのでしょうかね。これ、ホント原作読みたくなっちゃいますねえ。

ニューエイジのムーヴメントというのはもちろんアメリカだけの話ではなくて、特に西欧世界で担ぎ上げられたカルチャーだと認識してます。このノリはそのまま日本に移植されてサブカルチャーとか呼ばれるジャンルになった…などとは言いたくありません。なぜなら、はっきり異なるのは、日本においてLSDはどマイナーなドラッグだからですね。日本のサブカルなんてせいぜい「シャブ」カルチャーだと、こう思っちゃうんです。「東洋思想のようなもの」を受け入れる体制というのか、脳内の受容体というのか、そういうのが西欧に比べると日本には足りないのではないかと思うのですよなぜなら東洋の一部だし。だから本作品の笑いというのは、これねえ、なかなか「ハイカラ」なもんだなあと感じました。

それを象徴していたのが、『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』にも登場していた、金玉に重りをぶら下げる訓練です。あのクダリって、イギリス人はお気に入りなんでしょうね。本作では「その訓練は何の役に立つのですか?」と言われてましたが、ジョニー・イングリッシュの方では最後にきっちりと役に立ってましたねそういえば。あと、ニューエイジ的な文脈にスターウォーズがあることの意味は、これ知ってる人じゃなきゃ汲み取れないんだろうなあと思っちゃいました。私は知りません、ごめんなさい。

他にもニューエイジを徹底的にこき下ろしたようなシーンがいくつか見られ、超能力を完全に「お笑い」に変えていたのですが、そのボケ役をジョージ・クルーニーが演じるとあからさまに凄まじいわけで、これを否定してフラットな立場で見るためには強烈なツッコミ役が必要になる、そこの役どころをユアン・マクレガーがきっちり引き受けていたのが最高でした。二人のキャラが強烈に引き合っていたために、かなり色彩の濃いコメディになっていると思います。それでいて役者頼みっていう笑いでもないからすごい。

なんかすごい映画観ちゃったなーという感想です。