『反=日本語論』を読みました

蓮實重彦さんの『反=日本語論』を読みました〜。

反=日本語論 (ちくま学芸文庫)
蓮實 重彦
筑摩書房
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ハスミなんて読むの久しぶりでしたよおホントに。想像していた以上に読みやすくて、アレレって思いました。この本はどうも、ハスミの本チャンの文章というよりは、手なぐさみに雑誌に書いたような文章を集めたっていうテイのものらしいです。とはいっても寄稿している雑誌は「言語生活」「現代思想」ですからねえ、それなりの覚悟は必要なわけですよ。あとがきの日付は1977年(古ッ!)。夏目漱石論が78年で、闘争のエチカなんてもっと後の88年だったんですね。学生のころにウワーヒエーと喚きながら「小説から遠く離れて」をガチで読んでいたのも今となってはひどい思い出です。最初に本書を読んでりゃよかったなあなんて、まったく今さらながら思いました。

というのもこの本には、文章として非常に美しいなあって感じる部分がたくさんあってですね、そして確かに同時期の漱石論のガチンコ感というか緊張感もみなぎってるし、なんか本題の日本語論批判や言語学の言説なんてのはついでなんじゃないかって思うほどに、愉快なハスミ一家のお話が満載です。とはいえ、家族にインスパイアされたという話だけなら、それはよくあるエッセイでしょう。実際これらの原稿は、もっとも身近な存在の家族の話題から、どこに行き着くのか分からないままに書き始めているようなフシがあって、なんだかんだとこねくり回して最後は筆力でうまいことまとめてみましたっていうパターンも多く、それだけでなんとなく面白くなっているのは明らかに著者の学識に拠る部分が大きいんですね。

野坂昭如の短編がまさかのロラン・バルト「S/Z」でオトす「S/Zの悲劇」、なにげない状況描写がそれこそ映画のように美しい「シルバーシートの青い鳥」、藤枝静男の短編から綴った「皇太后の睾丸」、などの章に心動かされました。改めて、というよりも初めて、"美文家"蓮實重彦を体感したので、このまま小説『陥没地帯』も読むべえかと思っております。