『ウォーク・ハード ロックへの階段』を観ました

ジェイク・カスダン監督の、『ウォーク・ハード ロックへの階段』を観ました〜。

脚本、製作のジャド・アパトーの手のひらの上でまたもや気持よく転がされました。少し前に見た芸談映画はなんかはひねり過ぎた結果大したことがなかったんですが、さすがに音楽を絡めてくる映画では外しようがないですね。音楽のことになると真剣になるタイプだということはこれまで見た作品から強く感じてますが、本作においてもその情熱は発動されたようです。

アメリカ音楽の歴史は、1世紀単位で見るともうほとんどミラクルと言っていいような出来事ばかりが起こっていて、特に50年代から90年代までは、人類史上稀に見るダイナミックな歴史的トピックであることは間違いないんです。そのダイナミズムを、偽伝記映画という形で表現したのは、いかにもアパトーらしいんですが、このやり方自体は特に目新しいものではありません。脚本というかネタ的には、嗅覚が最後に復活するとか、いつもトイレの洗面台をぶっ壊すとかもイケてました。いろいろバイオグラフィをパクってるんですね。

主演のジョン・C・ライリーがなまじ、ではなくてかなり歌も上手なだけに、実の所演じている「伝説の」デューイ・コックスもなんだか「それなりの」B級スターに思えてしまうという点がいただけなかったところではあります。せっかくジョニー・キャッシュボブ・ディラン風な曲でそれっぽいヘアメイクや衣装(どちらも素晴らしい仕事です)でも、完全にジョン・C・ライリーの世界になってしまうという、この違和感。これが全体としてのジョークになっているんですけどね、ここを笑えるかどうかという点が最大の焦点だと思います。私としては、笑おうと思えば笑える、そんな感じでした。なかなか音楽のパロディだけではねえ、ちょっと…。ただしあまり他に類を見ないほどの、本意気のパロディですから、見どころとしては十分です。

音楽も大事ですが、やはりいつものように、素晴らしいキャスティングが際立っておりました。まずジャック・ブラックを始めとしたビートルズの面々。これはメチャクチャくだらね〜絵でした。インド人の老師役は童貞男で店員やってたインド人と同じ俳優でしたねえ。亡霊役のジョナ・ヒルの中指立てる姿はやっぱりお似合いだし、TVショーのホステス役のジェーン・リンチもなかなかよかったです。プレスリー役のミュージシャン、ジャック・ホワイトなんて初めて知りました。才能のある人とのつながりは映画作りにとって不可欠だということを思い知らされるし、こういう知らない人を知る喜びがまたよいですね。

そんな中でもやはりジョン・C・ライリーの活躍が一番期待に応えていたんじゃないでしょうか。この人や例えばアダム・サンドラーあたりの、賞レースにも絡みそうな「本格派」もできる俳優は、やはり普通に立ってるだけでも、そしてコメディ映画とはいえども時折入ってくる無駄に感動的な演出やセリフの表情や動きに、特に老年期のデューイ役に、存在感を感じてしまいます。かっこいいですねえジョン・C・ライリーは。クソガキ義兄弟でもそれなりに好きですが、本作は可笑しさもかっこ良さも引き立つ、不思議に魅力のある作品になっていると思います。

邦題がクソです。ジョニー・キャッシュの自伝映画に掛けてるんでしょうが、意味不明過ぎます。普通に「デューイ・コックス伝」で良かったのに。

偽音楽史の設定では、個人的には何と言っても名作『ソウル・メン』を思い出しました。あれは本当にいい映画でした…(しみじみ)。