『中年クライシス』を読みました

河合隼雄さんの『中年クライシス』を読みました〜。

中年クライシス (朝日文芸文庫)
河合 隼雄
朝日新聞社
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ナバホへの旅 たましいの風景』に続いて河合さんの本は今年2冊目ですね。

さまざまな文学作品における中年の登場人物の描写から、心理療法家の河合隼雄さんが中年期の人間の危機を読み解いたという本です。私は40歳なもんで、ブログに「中年」という言葉を使っているわけですが、中年という言葉にはずいぶん幅があるものです。でもやっぱり40歳くらいにならないと、この本で扱っているテーマはあんまり意味がないでしょう。多分ね。でも一方では、読書体験てのは必ずしも自分の体験にすり寄らせる必要はないんですから、別に大学生がこの本を読んでもまったく意味がないわけではないと思います。

すべて「中年」に焦点を当てており、書き下ろしにしてはずいぶん狭いニッチなところを目指して(中年という言葉の定義は広いとはいっても)突いてくるもんだなあと思ったんですが、あとがきで種明かしがありまして、これは『月刊Asahi』という、恐らくは中年向けの雑誌に連載されたものだそうです。普段小説を読まない河合さんが読んだのも、連載だったからでしょうねえ。雑誌というのはこういう無理矢理にでも作るという副作用もあるから、ホントはなくしちゃいけないんですよね…ある種のカンフル剤としては常にあり続けたほうがいい。遅筆だろうと寡作だろうと、月一回、週一回の締め切りがあるなら泣いてでも原稿書く、というような状況こそが文学だったり漫画界だったりを作ってきたという点は誰も否定できないんじゃないでしょうか。

あらら話ぶっとびました。河合さんの読み解き方が独特で面白いですねえ。児童書しか読まないといいつつも、それぞれガッツリ読んでますやん先生。漱石の『門』で始まり『道草』で締めるという構成も、さすが漱石ファンですねっていう。谷崎潤一郎の『蘆刈』なんて、あんなモヤモヤした物語を解説するのに白洲正子さんまで出てくるのは、きちんと選んでらっしゃる方がいるんでしょうか。ちょっと驚きました(まあ確かに西行といったらあの人ですけど…あとで河合さんと白洲さんが昵懇だということを知りましたw)。

個人的には、私も普段は絶対に読まない物語のあらすじが読めたというのもオイシかったです。山田太一さんの『異人たちとの夏』という作品は映画にもなっているんですね。ググったら某所でちらっと動画の断片を見ることができました。風間杜夫の名演技じゃないですかこれ…あと父親片岡鶴太郎だって…もう泣けそう。

その一方で、こういう書評本って、一時的に読ませる気にそそのかされるんですけれども、結局しばらくすると、やっぱり読めないなって気持ちが萎えてしまうんですよね。円地文子さん、佐藤愛子さんあたりも読んでみようかなっつー気にはなりましたが、多分読まないでしょう。大体読後感も想像できますしねえ。それから中村真一郎なんて読めないですよホント。勘弁してください。ケツまくって逃げ出したいです。ああいう濃い作家にどっぷりハマるっての、私は無理です。いやしかし、ちょっとは読んでみようかなあ…みたいな誘惑が…。

うーん、まだまだ世の中には読むものいっぱいありますなあ。ありがたいことですなあ。