『バッド・アス・シネマ』を観ました

『バッド・アス・シネマ』を観ました〜。

バッド・アス・シネマ [DVD]
キングレコード (2004-04-07)
売り上げランキング: 106725

スウィート・スウィートバック』や『黒いジャガー』をはじめとする、70年代のブラックスプロイテーション映画の隆盛を描いたドキュメンタリー作品です。

感激しました。

60分もない映画なのに、見所がたくさんあり過ぎてもうなにから書いたらいいやら。タランティーノ監督、パム・グリアサミュエル・L・ジャクソンがインタビューされてるんですが、つまるところ一番最後に『ジャッキー・ブラウン』の映画のPRみたいになってるんですよね。このあたり、まさに、この映画自体もexploitationしちゃってるわけですよ。大したビジネス感覚ですよね。

サミュエル・L・ジャクソンが言うには、当時みんなは「気晴らしを求めていた」そうです。テレビをつけたら白人警官がまた黒人を殴っただのというニュースが流れ、公民権運動もキング、カーマイケル、パンサー党、言ってることがバラバラだし。2Pacの母親のアフェニ・シャクールは、多くの映画が作られた理由はブラック・パワーではないと言います。つまり気晴らしだったんです。その端緒が、『スウィート・スウィートバック』だったというわけです。

監督のメルヴィン・ヴァン・ピープルズが言うには、インテリの黒人も民族主義者もこの映画を嫌っていたそうですが、パンサー党は全員この映画を支持したとのこと。『スウィート・スウィートバック』はかなり奇抜なエロ映画なんですが、政治的主張は全然伝わらなかった。監督の考えは、主役の職業をなんにしようかと考えて、会社員でもミュージシャンでもちょっと違う、やっぱ女とセックスだろ!てな感じで、セックスの超強い男が主役になったというわけです。純粋に商売に徹して観客を挑発し、黒人を映画館に集めようとした点で革命的だったと。「ゴダールに匹敵する!」という評価をしているのは映画評論家のエルヴィス・ミッチェルです。

いい話だなーって思ったんですが、ピープルズ監督が公開上映を見た時に、ラストのシーンで、隣の黒人の老婦人が「彼を白人に殺させないで。死なせてあげて」って言ったそうなんです。映画の中の黒人は死ぬものだと、彼女はその時思っていたと。ネタバレになっちゃいますけど、なんとスウィートバックは、国境を越えてメキシコに逃げ切るんですよね〜。黒人が初めて逃げ切った映画なのです。なんていう革命的な物語だ!主役が逃げ切ったラストを観た客は絶句した後に大興奮したといいます。

この映画が売れまくったために、次いで『黒いジャガー』が出てくるわけです。すべてはビジネスです。売れるんだったら作ろうかっつー話。驚いたことに、当初は白人用のキャスティングで書かれていたのを変更したっていう話です。ゴードン・パークスの指示で、アイザック・ヘイズがおなじみの主題歌「Shaft」をスタジオで録ってる場面の映像はうわーって声出しちゃいました。タランティーノもこの映画については興奮してしゃべりまくってます。こいつオタクだからなーw。

そしてお次は『スーパーフライ』です。これもまた初めて知ったんですが、この映画は麻薬で金を稼ぐカッコいいワルが主役なんですが、カーティス・メイフィールドが手がける挿入歌は、すべてが「こういうワルになったらいけないよ」っていう内容なんですと。映画の中のアンチヒーローに対して音楽が異議を申し立てているという、ああもう、カッコいい構造ですよねえ。

「No Fear….Pam Grier is here!」っちゅう決まり文句がかっこいい『Coffy』もいいっすね〜。これはロイ・エアーズがサントラ手がけたんですよね。『Black Caesar』は、音楽をジェイムス・ブラウンに発注したら、やる気を出しまくって、3分のシーン胃7分半の曲を送ってくるとか、曲の尺が全部長くて困ったみたいな笑い話も出てきます。なにしろこの辺の映画は、サントラと切っても切り離せないものになってます。この流れって90年代にもあって、例えば『ソウル・フード』なんてのがそれにあたるんでしょうね。

その後、これらの黒人映画は批判にさらされるんですと。どんどん似たような映画が濫造されていき、ゴラクし過ぎちゃっていくんですね。世の中的にも、まず文化が変容していくと。自己を犠牲にして闘った時代から、獲得した自由を謳歌する時代へと変わっていったんですねー。そんな70年代のアフリカンアメリカン文化の一部始終がツルツルっとまとめられていることを考えたら、この尺でこの内容で、大したもんですよこの映画は。監督したのはアイザック・シュリアンという人。なかなか気鋭の監督さんのようです。