電話交換手

スタッズ・ターケルの『仕事(ワーキング)!』を読んでます)

今回は2人います。

一人は50歳のおばさんフランシス・スウェンソン。「なんとか大会があると客でいっぱいになるモーテル」で電話交換手をしています。もう一人は18歳になったばかりの女子でヒーザー・ラム。イリノイ・ベル社で2年間働いていました。どちらも体験談として、仕事の内容を具体的に説明してはいるんですけど、あまりに古くてピンと来ません。ヘッドセットをつけて、ジャックを持って差して会話して、料金を請求するっていう、昔のアメリカ映画によく出てくるアレです。

フランシスさんは職場で最高齢、電話交換手を20年はやっているベテランです。

一日働いたらもうくたくたよ。言ってみれば一日に千近くの電話をとるんだもの。コードにはおもりがついていて、八時間が終わるころにはものすごく重くなる。ジャックをとっても、あっという間に手をすり抜けて落ちてしまうくらい。一日中手を使ってるもんだから、男の人よりも握力の強くなった交換手がいるわ。

電話交換手は常に監視されていて、椅子も8時間座るにはきついくらい堅いそうで。盗聴は御法度なんですが、それでも盗み聞きはできるらしく、退屈な時はやってるとかいう話。

戦争中は会社から盗聴しろって言われた時もあったわ。そうねえ、たとえばスペイン語で話す人の通話は盗聴しろってね。こういうふうに報告するわけ、「スペイン語の通話です」って。どの交換台も盗聴できるようになってるのよ。

給料は安い、組合もない、だから自分の都合で休むのも一苦労。おなじみの愚痴ですね。

だけど私たちがいなかったらどうにもならないのよ。敬意を払い、感じよくしてもらいたいって思ってるの。交換手が悪かったら商売にならないわ。私たちはホテルの中枢ですもの。

50歳のフランシスさんは若い娘はなかなか続かないと言ってますが、18歳のヒーザーさんも同じ認識のようです。ちょっとストレスを感じています。

たとえば、ベトナムにいる人からの電話を受けたとするでしょう。ところが相手が話し中だったりすると、わりこめない。こんどはいつその人が電話をかけられるか、それはもう、神のみぞ知るっていう感じじゃない? 彼は寂しい思いをしていて、誰かと話したいと思ってるってことが、あたしにはわかっていて、そしてあたしはそこいいるんだけど、でも話せないのね。

話す仕事なのに会話ができないという、特殊な仕事ならではですね。

疲れるのは、ほんとは腕じゃなくて口なのよ。口ね。おかしいけど、しゃべるのって、疲れるのよ。だって、休みもなしに6時間しゃべり続けるんだもの。

当時は電話がコミュニケーションの道具の最先端だったんですよねー。電話で女性と話せばムラムラくるっていうのはよくわることで…。

その気さえあれば、電話をつかって、いつだってデートできるわね。あたしは何度も申し込まれたわ。(笑う)いつもね、ちょっとした話題をでっちあげたりしてさ、特に夜おそくて退屈な時なんか、南米かプエルトリコのアクセントでしゃべるの。とても色っぽい声でね、ちょっと相手の反応をみるために…。いえいえ、あたしは誘いに応じたことなんかないわよ。それほどよさそうな声の人がいなかった…

考えてみたら電話交換手と話す機会もまったくなくなりましたね。104の番号案内なんて、多分ここ一年は電話してないんじゃないかなって思いました。

「外はいい天気だよ、交換手さん。そっちはどう? 忙しい? 今日はたいへんだった?」なんて話す客に偶然出会う時は、それはちょっとしたもんね。そんな人には、本当に感謝したくなるわ。あたしはこういうわよ、きっと。「ええ、もう大変な日だったわ。聞いてくれてありがとう」ってね。

というオチで話をまとめます。

しかしまあ、現在でもかなりの人数が電話交換手を職業としてやってるはずですからねえ、交換台が新しくなっている点以外は、今も昔も交換手の思いは変わらないのかもしれんですなー。

電話交換手たちの太平洋戦争
筒井 健二
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