『なめくじ艦隊―志ん生半生記』を読みました

古今亭志ん生の『なめくじ艦隊―志ん生半生記』を読みました〜。

なめくじ艦隊―志ん生半生記 (ちくま文庫)
古今亭 志ん生
筑摩書房
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落語家の自伝としては鉄板、という評判を聞きまして、なにはともあれ手に取ってみた次第です。

タイトルから、また落語家の戦争の体験談かと思ったんですけどもそうではなくて、「なめくじ艦隊」というのは志ん生さんが住んでいた貧乏長屋が、なめくじのいっぱい出る場所で、それを徳川夢声さんが「なめくじ艦隊」と表現したのを借用したと書かれています。とはいっても、日本海軍の艦隊の勇壮さを皮肉ったものではありません。志ん生さんの戦争観は、大まかに言えば「戦争もそれほど悪いもんじゃあない」というもので、さすが明治の人って感じがしました。戦争の反動で生まれた戦後の反戦運動家の弁というものに、ことさら違和感を覚えていたのはこの世代の方々でしょうね。そりゃ戦争はいけなかっただろうけれども、別に暗いだけじゃなくってオモシロおかしいこともいっぱいありましたよ、って語られちゃうと、なるほどナと聞き入ってしまうもんですナ。

満州から引き揚げる辺りの話は実にいいですね。敗戦後に待ちわびていた引き揚げ船が陸を離れた瞬間に、それまでのロシア軍、支那人朝鮮人のいるヒヤヒヤした世知辛い生活から、とうとう日本人だけになったというんで、船の上でみんな涙を流して万歳をしたっていうあたりの機微は、こういう文章や口頭のお話じゃないと表現しにくいもんだなあと感じました。そういうことが過去の日本に、日本人の間にあったんだなっていう感慨があるから、戦争も悪いもんじゃあないって感覚も出てくる…これは震災の後に、地域の人々の絆が深まったというまさに現在の話と似てるんじゃないかなって気がしました。