『偶然の祝福』を読みました

小川洋子さんの『偶然の祝福』を読みました〜。

偶然の祝福 (角川文庫)
小川 洋子
角川書店
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以前から読もう読まねばと思ってた小川洋子さんの短編集を手に取ったのは、たいした理由ではありません。河合先生と吉本ばななさんとの対談がいまひとつだったので、口直しに以前読んだ小川洋子さんと河合先生の対談をちらっと読み返して、そういえば『博士の〜』以外に読んだことないことに気づいたので、というわけです。『博士の〜』は、ともあれ商業的にも「ハネた」作品であり、個人の作品という範疇では捉えられない大きな物語となってしまったという経緯もあり、小川洋子さんの代表作でありながら、小川洋子さんとはもっとも遠いところにあるのかもしれないな、と感じました。そんな気持ちから、なんとなく私小説に近いと評判のこの短編集を手に取りました。どうもこの手の作品は、小川さんには少ないらしいですね。

「失踪者たちの王国」、「盗作」、「キリコさんの失敗」、「エーデルワイス」、「涙腺水晶結石症」、「時計工場」、「蘇生」と、すべて主人公が作家である「私」となっております。ファンの方はとっくにご存知のことなんでしょうけど、初めて知ったんですがずいぶんトーンが暗いんですね。びっくりしました。トーンが暗いってことは大体信用できると思ったほうがよさそうです。浮ついた明るさを求めるなら、本など読まずにテレビや漫画を見てたほうが面白いのが見つかりますからねえ。

暗いとはいっても、どこか出口が見つかりそうな程度の暗さで、あんまりハメをはずさないような普通の人だったら、多分必ず一人でいるときに感じるような不安めいたことを、精確な文章に落としたらこうなる、っていう感じかもしれません。病的な暗さというより普通の暗さですか、そこを終始見つめているのが特徴といいますかね、病的にはならないあたりでこらえているというか。そんな思いになることもあまりないし、「私」がいつも女であるというジェンダー的な問題もあって、おっさん読者の自分としてはなかなか入り込めない部分も多かった気がします。本とはもっと、不幸で暗い心のヒダをまさぐられるような体験をしている読者も多いんでしょうなっていう、そんな感じです。

ま、これはこれでよかったなという感じですかねえ。これを読んでどうのこうのっていう作品でもなさそうですね。なんだろう、やっぱり不満は残りますよねー。