『スタンドアップ』を観ました

ニキ・カーロ監督の『スタンドアップ』を観ました〜。

スタンドアップ 特別版 [DVD]
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原題"North Country"のほうが内容を反映してていいですね。舞台は北国、1989年のミネソタ州北部の鉱山町。そこで男性に比べて圧倒的に数の少ない女性鉱山労働者が、度重なるハラスメントに業を煮やし、集団訴訟を起こして立ち上がるという、だから「スタンドアップ」なんでしょうけど、法廷闘争や運動自体はそれほど威勢のいいものではなくて、終始重苦しい北国のムードが低い音で鳴っているような、どちらかというと静かな映画です。内容はド硬派です。考えられないほどの鉱山の職場でのセクハラシーンは、これが現実にあったことを思うとなかなか心苦しい内容です。

何が気に入ったかというとですねえ、全編にわたってボブ・ディランがつかず離れず鳴っているイメージ作りが上手だなあと思いました。雪の深い北国の鉱山の映像と溶け合うボブ・ディランのイメージは、ボブ・ディランの作った音楽のイメージの幅広さを改めて感じさせます。ディランの出身はミネソタ州ダルース、それと舞台をかけているわけですね。この作品の寒そうな映像が、実はボブ・ディランの原風景とも言えるのだなあと、しみじみ思って観てました。

でも私の好みのせいか、主人公でシングルマザーのシャーリーズ・セロンについてはなんとも言えないんですよ…どうにも味が濃い女優で、確かにセクハラ受けそうなタイプに見えますが、こんな人が鉱山で働くって状況もなかなか映画ならではだなあっていう。つまりありえないよなっていう。もうちょっと悲壮感の似合う女優がよかったんじゃないかなーなんて素人としては思うんですけど。まあでも作っちゃったもんはしょーがない。『ヤング≒アダルト』でも感じたんですが、シャーリーズ・セロンは田舎に置くには派手すぎるんですよねー。ただ、フォローするわけではないんですが、この存在感だけで田舎に波紋を巻き起こしそうな予感を観る者に与えられる女優はほとんどいないと思います。だからやっぱ、稀有な大女優とされているんでしょうねえ、よく知りませんけどね。


個人的には主人公の若い頃の女優、アンバー・ハードの方が、実際にいそうな田舎のヤリマンを好演してて好きでした。どうもこの過去と現在の2人がイメージとして繋がらないんですけど、最後の法廷シーンでなるほどそういう事件があったのならしょーがないっていう、強引に納得させられた感じです。最後の法廷シーンがキモで、ネタバレなんてあんまり普段考えずに書いているワタクシでも、さすがに書けないぐらい重要でした。まあ実話を元にしてるんで、別にここで書こうと書くまいと、ググったらすぐわかっちゃうんでねえ。「ググる前に観る、観た後にググる」、これ鉄則ですね。


本作品で初めて観た俳優でしたが、主人公の女にレイプ未遂をしてしまう鉱山の同僚ジェレミー・レナーが、ずいぶん光ってましたね。鉱山で働く器の小さな男って感じがよく出てて、説得力があったと思います。最後の法廷シーンでの彼の挙動もかなり重要で、弁護士役のウディ・ハレルソンとの絡みはグッと来ます。これは美味しいですよ役者として。かなりいいシーンでした。

そうそう、ウディ・ハレルソンはこういうド硬派映画で味を出す俳優なんですね。黙って演技させてたら『ランパート』ぐらいにゴリゴリしてしまうような硬派で、断じて『ゾンビランド』が本筋ではないということです。法廷シーンでグイグイ行っちゃう弁護士役がハマってて、またこの役者が気になってしまいました。この人、実にいいですね〜。観る順番が逆になってしまってますが、要するにゴリゴリ硬派のウディ・ハレルソンだからこそ、ゾンビランドにオファーが来たのだというのが物事の順序だということです。

オヤジ役のリチャード・ジェンキンスの美味しいシーン、組合の集会での大演説も心に残りました。いろんな映画で主にお父さんタイプの役で出てくる俳優ですが、これまで見た中では本作品が一番いいですね。セクハラを受け続ける娘の、最後には味方であってほしいと願う観る者の感情が、このシーンでスッキリするんですよね。やっぱお父さん役が多いからなのか、娘を労わる細かい所作は、娘が同じ職場で働くのを嫌がる寡黙な男というキャラと相まって、それはもう見事なものでしたねえ。


もうひとり挙げるとすれば、主人公を法廷で追い詰めた女性弁護士、リンダ・エモンドが素晴らしかったですね。会社側の弁護人として悪役ババア弁護士、ヘアメイクがいい味出してました。この人も細かくなんでも演じるバイプレイヤーで、気になっちゃいましたねー。こうやって振り返ってみると、適材適所のキャスティングで優れた作品であったことが感じられます。結構チカラの入った映画ですねコレ…ヨカッタです。