『神無き月十番目の夜』を読みました

飯嶋和一さんの『神無き月十番目の夜』を読みました〜。

神無き月十番目の夜 (小学館文庫)
飯嶋 和一
小学館
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飯嶋さんの本ってのは、文庫でも結構でっぷりとした厚みのある長編で、この作品もそうなんですが、夢中で読んでいる途中でふと(うわ…めっちゃくちゃ面白いなこれ…)と我に返ってページから目を離して、それまで読んだページのカサを確かめると、実はまだ全体の半分もいってない…っていう、その時に感じる幸福感ってのが尋常じゃないですね。めっちゃくちゃ面白いヤツがまだ半分以上も残ってる!っていう幸福感。もったいないとは分かっていながらも、とにかく読むのをやめられない。こういう本に出会えてホントにラッキーですなあ。「飯嶋和一にハズレなし」ってどこかで見たけど、あのアオリの通りです。間違いないです。

特に今回読んだこの作品には、『スピリチュアル・ペイン』で見られた馬への眼差し、『プロミスト・ランド』での軸となる山林の風景、『雷電本紀』にもあるような村相撲の語彙など、細かいけれども作家的な知識の蓄えっていうんでしょうか、そういったもので物語の隙間が上手に濃密に満たされてて、そんじょそこらの下調べではまず絶対に書けない物語空間があって、さらに事件の三日後から話が始まるという構成の巧さもあって、ただ文章の流れのままに委ねて、どっぷりと世界に引きずり込まれてしまいました。ホラーとかオカルトとかの、いかにも日本人の好きそうなお話(と、思ってるのは私だけでしょうかね?)への扉もあちこちに仕掛けてあるし、なにより驚いてしまうのは、これは慶長年間、関ヶ原の戦が終わったばかりの頃の話なんすよね。そんな昔話だとまったく感じさせずに、「いま/ここ」の場にさあ食ってみろと皿に盛ってみせるという手腕には惚れ惚れします。歴史モノってのはなにも昔の作家にアドバンテージがあるわけじゃない、と半七読んだ時に思いましたけど、まさにその好例というわけです。

えーと、メインのネタはバラしたくないので書きませんけど、今回も好きな人物がいくつか出てきましたよ。馬を売る佐市。陣場に住むという百姓兄弟。それから生薬商人。いい味でした!

官僚的なるもの、あるいは支配者への反感や敵意、持たざる者虐げられた者の側からの視点、そういったものが飯嶋さんの作品にはいつもブレずに共通して見られます。普通に書いたら、青臭いことを言わせたり妙に教条的な地の文になっちゃったりするところ、飯嶋和一さんのはそういうパンクロックの歌詞みたいになっちゃうところがないんです。そこがたまらん魅力だなと、今回感じました。