『とびきり哀しいスコットランド史』を読みました

フランク・レンウィック著『とびきり哀しいスコットランド史』を読みました〜。

とびきり哀しいスコットランド史 (ちくま文庫)
フランク レンウィック
筑摩書房
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何かの、あるいは何処かの、「歴史」が好きになる瞬間ってのが各人あるかと思うのですけれども、「その瞬間どうして歴史を好きになったか」という質問に対する答えをまとめたりしたら結構面白いんじゃないかなと思いました。歴史に対する考えや態度というのは十人十色でありましょう、その幅の広さをまた感じてしまった、という一冊でした。

ヨーロッパ史について自分はほとんど知らないことを、須賀敦子さんの本で思い知らされたんですが、とはいえイタリアや、文明の興りであるところの地中海から始めるのも読み方として順当すぎるべさ…本書『とびきり哀しいスコットランド史』を手に入れたのはそんな経緯だったような気がします。

もうひとつついでに、私はビール派です。もちろんワインも嫌いじゃないです。でも、ビールを専門に飲むパブという場所では、ワインにまつわるすべてを敵として見てしまうような、そういうカルチャーってのが確かに臭うものです。ドイツやベルギービール中心のお店、日本の地ビール中心のお店、いろいろありますが、ワインもビールも旨いんだから両方飲み屋にあってもいいんでしょうけれども、なにか併存できない雰囲気ってありますねー。ワイン派とビール派は仲が悪い、それからシングルモルトに凝ってるお店はなぜかビールの種類も多いんですよね、経験則ですけど。というなら、自分としては、まずはビールの方面からヨーロッパを知ろうというわけです。

本書は原題が『Scotland, Bloody Scotland』と言いまして、そのまま意訳したら『流血のスコットランド史』とかいう題名になってたかもしれません。一国の歴史なんてほとんどが流血でしょうからそれでも構わないんですが、本書はスコットランドの元貴族が自虐的な冗談を簡単に繰り出したユーモアのある文章が特徴ですので、この邦題がぴったりだと思いました。イラストがまた笑わせます。スコットランドのことについてまったく知らなかった私にとって、この本は正解でした。

大雑把にまとめますと、スコットランドという国は、ほとんどの時代がイングランドの属領扱いみたいなものであり、地理的にもイングランドとの関わりがすべてだったと言えます。そんなのは国なのか、との思いもよぎりますが、国王がいたから国なのですイングランドはフランスばかりを相手にして、北のスコットランドなど貧乏だし土地は荒れてるし、あんまり触手が伸びなかった…、ちょうど江戸時代以前の陸奥蝦夷みたいな扱いに似ています。

ちょっと読んでて盛り上がってしまった箇所を書きましょう。14世紀初頭のスコットランド史です。

ラナークシャーの名もない騎士から国王に上り詰めたサー・ウィリアムス・ウォレスは、フランスとの休戦協定を結んだイングランド軍に攻撃され、1298年1月にフォールカークの戦いで惨敗。その後逃げ回るんですが1304年5月に捕まって処刑されます。最期の言葉は今もスコットランドに語り継がれるそうです。いわく、「私は、国王エドワードに楯突く反逆者ではない。イングランド王エドワードは私の仕える王ではないのだから」、く〜かっこいい、てことが分かりますね。ウォレスほどは愛国心のなかったロバート・ザ・ブルースは、政敵のジョン・カミンを教会で殺してしまったもんだからローマから破門されてお尋ね者になって逃亡します。しかしイングランド王エドワードが死んでひょいと故郷の地に舞い戻り、そこから腹心ダグラスとランドルフと共に連戦連勝、1314年バノックバーンの戦いで、ブルース軍7000に対して地上最強のイングランド軍は2万。こりゃあかんと思ったら…なんとイングランド軍はなにを血迷ったか別の陣地に行っちゃって、ブルース軍が勝ってしまうんですね〜。以来、これがスコットランドイングランドへの唯一の勝ち方、つまり「相手のミスを待つ」ことになった、とかなんとか書かれています。ちょっと三国志における劉備(と関羽張飛)を想像しました。もちろん国民的英雄のブルースですが、実は「ノルマン人の血を引きフランス語を話す破門された殺人犯」で、こんな男こそがスコットランド人を夢中にさせてしまう存在であったことは確か」なんだそうです。力道山みたいなもんでしょうか。この「スコットランド国王にしては稀に見る幸運の持ち主」であったブルースは1329年に55歳で死亡、息子デーヴィッドの代になるとたちまちイングランドは和平協定を破棄し、攻め込みます。まあ大体が、こういうことの繰り返しです。

それから歴史はずっと下って1707年、筆者が言うところの「歴史上最も大規模な売国行為」によって、スコットランドは完全にイングランドと合併します。しかし、「さて例のごとく、ハイランドがまだ残っていた」と続きます。日本で言うなら大政奉還の後の戊辰戦争ですね。1745年にプリンス・チャールズ・エドワードが蜂起した際、この北方の辺境地のハイランドの住民が活躍したのですねー。この住民たち、ハイランダーは勇猛果敢で知られている兵士で、最後の抵抗をしたのです。んで、この人たちの服装ってのがかの有名な、タータンチェックのスカートなんですね。

そしてこのギミックを使ったプロレスラーが、かのロディ・パイパーというわけです。実際ロディ・パイパーはカナダ人でしたけど。最後の最後にプロレスの話になってしまいました。