『本所深川ふしぎ草紙』を読みました

宮部みゆきさんの『本所深川ふしぎ草紙』を読みました〜。

本所深川ふしぎ草紙 (新潮文庫)
宮部 みゆき
新潮社
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久しぶりに読みましたが、やっぱり宮部さんの時代物はいいですね。一方で現代ものにはさっぱり触手が伸びません。本書の解説でも池上冬樹さんが『我らが隣人の犯罪』などを超ほめまくってて、その中でも「サボテンの花」を絶賛してて、私はその解説を読むまでどんな話だかすらも忘れてたというわけで、この自分の評価との差は一体なんだろうといつも考えてしまいます。そんなにミステリーって面白いでしょうかねえ?

ともあれ、宮部さんの作品には、いつも陽気で旺盛な創作意欲を感じます。びっくりするようなプロットも設定もそんなに必要ないですよ、とこちらでは思っているのに、サービス精神を発揮してくれるというところが好きなんです。宮部さんには「ヤッツケ」がほとんど見当たらないって点が素晴らしい。

本書は「深川の七不思議」から創作した七編の短編集で、また別の時代物の短編集である『初ものがたり』から茂七親分が登場しております。なかなかこれが、半七親分のようでもあり、違うようでもありという。こういうところが、素人向けの高座で落語やってるのに舞台袖で見ている若手に向けても内輪受けとしてしゃべっている噺家みたいなもので、批評家受けというか業界受けもするところなんじゃないかなって感じもします。

あと、宮部さんの時代物を読むと、作家のジェンダーの問題も否応なく大きなものとして感じてしまうんですねえ。女の子の目線で語られるのがデフォルトで、男性作家であればなかなかこうはいかないという問題は大きなアドバンテージだと思います。自分が特に好きだったのは第七章「消えずの行灯」でして、主人公のおゆうがとても醒めていて魅力的だったし、火事の後に主人が帰ってきた時のお松さんの描写もよかったし、女性性を保ち続けてこそ成立するこの二人の登場人物に特にしびれました。これに比べたら他の話は「まあまあ」としか言えないです。普通の「江戸の女」だなという感想。この、江戸の女性をどう描くべきかという、杉浦日向子さんが俎上に引っ張り出したような大問題を、読み手ももっと自覚せにゃならんなと思いました。