「ボビー」を観ました

エミリオ・エステベス監督の「ボビー」を観ました〜。

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東宝 (2007-08-10)
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まずは全然関係ない話なんですけど、開始早々から、以前観た別の作品のことをずーっと思い出そうとしてたんですが、とうとう思い出せなかったんですよねー。同じような時代の設定で、同じような群像劇で、ところどころはとても印象に残っているんだけど全体のストーリーがまったくすっぽりと抜け落ちているっていう、そういう映画だったんですけど、とにかくその「思い出そうとした映画が思い出せなかったこと」が強く印象に残っちゃった映画でした。

強いイメージをずっと喚起させられ続けた理由の一つは、本作品の美術制作の秀逸さにあると思います。特に厨房のシーンと美容室のシーンのセット全体は迫力と繊細さを兼ね備えてまして、これは他に類を見ない美しさだと思います。美術の勝利、こんな映画もあるんですよね。そういえばそんな作品があったな…とまだ思い出せないw。

答え合わせしちゃうと、思い出せなかったのは映画『ナッシュビルでした。選挙戦つながり、群像劇つながり、美麗セットつながり、ヨーロッパから来た新聞記者つながり、夢のカリフォルニアつながり、LSDつながり…。なんかもういろんなものがオーバーラップしちゃってます。こうやって書いてみるとかなりの部分で印象が繋がっていますね。ナッシュビルは1975年の製作、ロバート・アルトマン監督です。「ボビー」はもちろんロバート・ケネディ暗殺の1968年が舞台で、2006年製作。ほぼ30年の歳月の隔たりを感じさせないほどにとてもよく似ています。ナッシュビルの方はもうストーリーもどんなんだったか忘れちゃってるんですけれども、ところどころ強烈な印象として残っている映画で、文句なしの名作なんですけど、いやいや「ボビー」もそれに引けを取らない名作でした。

ディテールの話をしましょう。なんといってもまず、ヘザー・グラハムは最高ですよ。なんていうかこう、安い女っていうところを出していけるのは女優としてすごく得しているんじゃないかなって思うんですよね。もちろん文句なく美人なんですけど、安い女っていう雰囲気をまとっている美人というのはなかなかいない。いろんな女優さんが安い女を演じていますけれども、ヘザー・グラハムほど似合う人はいないと思います。とてもいいと思います。

それから厨房の若き王、フレディ・ロドリゲスの役どころがとてもいいんです。厨房は本当にいい役者ばかりが出てきて、本作品で一番いいセクションでした。同僚の口汚いジェイコブ・バルガス、そしてローレンス・フィッシュバーンには拍手喝采。野球のチケット絡みのプロットも素敵でした。ドジャースのドン・ドライズデール、カッコ良かったんでしょうねえ。そういえば「ゾーハン」のパレスチナ移民たちも開口一番メッツの話をしてましたね。野球は労働者階級が好むから、それだけで正しいスポーツと言えるのですねー。

こういう自分の好きな俳優以外でも、デミ・ムーアとかシャロン・ストーンとかもう大スターばかりが出てて、お得でしたね〜。ところが素人目にはどうにも贔屓目の役者しか興味がなくって、デミ・ムーアがどうだったかとか結構どうでもいいなっていう部分はありますけれども。要するに素人目には、またしてもヘザー・グラハムの圧勝、という感想です。こういう人が映画語るなってね、よく思います、自分でも。

そして主題であるボビー・ケネディについては、実際の映像をうまーく使いながらっていう手法には大変恐れ入りましたけれども、うーん…なんかラストは圧倒的な民主党のプロパガンダ感がありました。結構アクの強い映画だと思いますよ結果的にはね。そういう個性がやはりこれだけのスタッフや俳優陣を集めた要因でもあると勝手に解釈しております。

なにしろあの時代、1968年、本当に大変だったんだなと。弔い合戦で民主党が勝ったわけではなくて、その後共和党のニクソンが勝っちゃってるわけですからね、歴史っていうのはこうやって眺めると本当に非情です。一般庶民としては為す術がないんですが、映画を作る人ならこうやって熱意を表明できるわけで、映画人の心意気はものすごーく感じました。エライ!