『WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々』を観ました

トーマス・マッカーシー監督の『WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々』を観ました〜。

こんないい映画を観させていただき、感謝します。

コメディ3割、いやコメディ2割か、このコメディ要素の配分が絶妙で、「バカ笑いした」とか「大泣きした」とか「感動した」という惹句では決して唱われることがない地味な映画でしたが、それにしても本当にいい映画でした。脚本、映像、配役のすべてが観客に対して誠実で、編集も美術も衣装も、最小限の技術でもってストーリーを活かしています。映像制作にまつわるあらゆる点で、好印象を受けました。ノミネートは多数されても受賞はしないっていうタイプの典型的な良作です。

配役がねえ、いやあもう、大好きですよこの配役のセンスは。実力派ぞろい。渋い。監督のトーマス・マッカーシーには、『扉をたたく人』というこれまた地味映画があるんですけど、主演になんとプロ脇役のリチャード・ジェンキンスを持ってきた前科があります。本作も実に彼ならではの配役でうっとりしました。

ポール・ジアマッティはこれまでも『マン・オン・ザ・ムーン』『スーパー・チューズデー 正義を売った日』などで、重要なサブキャラクターとして目立っていましたが、いざ主演として観た時の迫力といったらハンパないっすね。パッと見の印象はバナナマン日村ですが、まさに日村さんと同様に、俳優としての下地っていうんでしょうか、演技の基礎体力というのがしっかりしています。ニュージャージーの片田舎の、高齢者福祉専門の弁護士役、二児のパパ、高校レスリングのコーチ、そして不景気で仕事がない、金がない、どうしよう…家族のことを思うとジョギング中に息が詰まるほど、誰にもばれないからよしやっちまえ!…これらの架空のキャラクターの要素が、ひとりのポール・ジアマッティという俳優の中に自然にひとつとして収まっています。

奥さん役のエイミー・ライアンも目からウロコ。彼女の演じる元Jersey Girlという設定に、とても興味が湧きました。察するにJersey Girl、ちょっと短気でも情にもろい、義に篤い、おせっかい、そしてJBJ、ジョン・ボン・ジョヴィ。書いてみるとなんのこっちゃって感じですが、しかしこういうキャラ設定を大事にしたシーンが結構あって、さりげなく上手な演出だなあって思いました。タバコ吸うならこの植木鉢に吸殻入れてね、パンケーキあるから食べなさいよ、麻薬女にあったらぶん殴っちゃうかもしんない、あたりの取るに足らない一言一言に人間味を感じました。映画ではまったく触れられませんが、彼女がポール・ジアマッティと夫婦になった背景まで想像してしまいました。ほんとに上手ですね、演技も演出も。

"副コーチ"役のボビー・カナヴェイルが、ほとんどのコメディ要素を受け持っています。この男の各シーンでの部外者っぷりが可笑しかった! 冷静に考えてみると、本作全体のストーリーから言ってもまったく当事者ではないんですよねこの男。喋り方のトーンも声質も顔の濃さも、まったく関係ないという役柄にぴったり来ます。よくこんな人を当てはめたなあ…大成功じゃないでしょうか。

本作が初めての映画であった高校生アレックス・シェイファーは、ガチでレスリングのチャンピオンになってるようですね。いかにも女子ウケしそうな男子。よう見つけてきますよねこんな人をね。すごい。

配役についてはホント褒めちぎりたいです。会計士でコーチ役のジェフリー・タンバー、ぼけかかった爺さん役のバート・ヤングは文句なしの安定感でさすがベテラン。"麻薬女"を演じたメラニー・リンスキーも、彼女の弁護士役のマーゴ・マーティンデイルも、実に印象に残るいい仕事をしています。

あとニーナ・アリアンダって人。『ペントハウス』でも気になってました。職場での事務員の役の人ですが、彼女の顔と声とセクシーな風味に、これから結構はまりそうです。2012年のトニー賞の主演女優賞をとっちゃってるってのがすごい。相変わらずアメリカ映画の底の厚さ、底辺の広さ、人材の豊富さを感じてしまいます。忘れずに覚えておきたい名前です、ニーナ・アリアンダ。ジャニス・ジョプリンの伝記映画で主演するらしいから、楽しみですねマジで。