『キル・ザ・ギャング 36回の爆破でも死ななかった男』を観ました

ジョナサン・ヘンズリー監督の『キル・ザ・ギャング 36回の爆破でも死ななかった男』を観ました〜。

グッときました。素晴らしい映画だと思います。

原題が"Kill the Irishman"、あのアイルランド人を殺せっつー物騒なタイトルなんですが、このタイトルが劇中でかなり効いてくるんですよね。マフィアで幅を利かせているのはニューヨークの幹部連中はイタリア系と相場が決まってるんですが、これはオハイオ州クリーヴランドアイリッシュ系アメリカ人の、あるひとりのワルの話を、史実に基づいた原作を絵にしたという映画です。時代は70年代、音楽も雰囲気もすごくよいんです。史実つながりということで言えば『だれもがクジラを愛してる。』とも時代的には重なり、こんな変な事件があったんだよっていう映画としては同じ項で括れそうです。

前半はこのあるひとりのワル、ダニー・グリーンという名前なんですが、港湾組合でどんどん出世していく話になってます。レイ・スティーヴンソンがぴったりの役柄。口数は少ないけれども信義に篤い暴力男、まさにアイリッシュのワルという感じです。名前もグリーンっていうのがね、いーんですねえ。そして中盤から終盤にかけては、爆破の連続。自動車に仕掛けた爆弾がいつ爆破するんだかしないんだか、画面に出てくる70年代のアメ車すべてが疑わしくなるような絵が作り出されています。なかなか胸を張って「爆破シーンが最高でした」と語るのは恥ずかしいんですが、この映画に関してはそういう映画とは違います。本当に意味のある爆破シーンばかりで、無駄な爆破はありません。

んで、さらにいいところってのは、マフィアに狙われたこのダニー・グリーンが、爆破から逃れている間の、友情や色恋が巧みに織り込まれてて、ジーンとしちゃうシーンが結構あるんですよ。アイルランドの指輪のクダリや、アイリッシュ系おばあちゃんとの絡み、アイルランド風の音楽使いなど、沁みました。全体的にはおっかない男たちがいっぱい出てくるので、北野映画っぽい楽しみ方もできるところでしょうけれども、主人公の弱さというのを少しだけ臭わせるところが味わいあります。ただのドンパチじゃないんですねえ。

前半のミソはやっぱりクリストファー・ウォーケン。素晴らしい役者です。『BAD』で見た情けなさなど微塵もない、めちゃくちゃおっかない男になってます。それからヴィンセント・ドノフリオの相棒役、これもたまりません。キャスティングは最高、そしてどちらもワルの業界にぴったり。

一人の人生を詰め込んだために編集やストーリーのテンポの性急さもあり、ここは賛否両論かと思いますが、私はこの70年代クリーヴランド、マフィア、自動車、爆破…というワードにぴったり合ったストーリーのテンポだったと感じました。むしろ実際のテレビ番組のニュースリールの使い方があまり効果的ではなかったかな、とは感じました。最後に「えーこれはホントにいた人なのね」と分からせるためだけのチラ見せ演出の方が好きだなーなんて。

何度でも繰り返し見て発見がありそうな地味映画です。これはよかった。