農場季節労働者 ロベルト・アキューナ

スタッズ・ターケルの『仕事(ワーキング)!』を読んでます)

スタッズ・ターケルの魅力のひとつは、インタビューという方法が地道なジャーナリズムそのものであった点にあると思います。なんせピューリッツァー賞受賞作家ですよ。もちろん好きじゃなければやれない仕事ですが、やはりやるからにはそれなりの大義があったんだろうなあと想像します。例えば今回とりあげるロベルトのような被差別者、弱者へのインタビューが、単に仕事についての話から逸脱して人生哲学そのものを聞き出そうとして長文になっているところに、彼の意欲が表れているように思います。

もちろんこういうインタビューですから、語り手に主観とさらには虚実が入り交じるのはもちろんです。しかし当時、弱者の身の回りになにが起こっていたのかを想像するには十分な情報と説得力があるように思えます。ロベルトさんは、アリゾナからカリフォルニアあたりの季節労働者34歳、全米農業労働者連合のオルガナイザーです。

俺は裸足で学校へ通ったもんだ。一番いやだったのは笑われることだった。アングロの子供たちさ。俺たちが弁当にトーティラやフリヨーレをもってくるって笑いやがる。自分たちは小ぎれいなコンパクトランチを持ってくる。魔法瓶に冷たいミルクを入れて持ってくる。

トルティーヤとフリホーレのことかな?

本当に辛かったのは、俺んちが生活保護を受けなくちゃならなくなった時だった。人間の威厳ってのが崩れる気持ちなんて誰にも分からないさ。当時は特別製の缶詰があって、ラベルには「合州国製、売買交換不可」って書いてあった。自分の金で缶詰を買えるっていうのがどんなに誇らしげな気分なのかなんて、誰にも想像できゃしないさ。

家族総出で農場の仕事をするものだから子供の頃から朝早く起きて手伝い、それから学校へ行って疲れてウトウトすると先生にたたかれて、スペイン語を話すと叱られて、夕方に学校が終わると家に帰って仕事に出て、という繰り返し。にんじんの収穫でカリフォルニアに来た時はテントで家族が暮らし、ひどく寒い中で毛布一枚で過ごす。あまりに寒いので地主から毛布を盗むと見つかって、洗って返せと言うから母親が毛布を洗って乾かしてアイロンをかけて返し、ひどく怒られた。

16歳で現場監督になり、ブラセロス(メキシコからの出稼ぎ労働者)を動かす仕事を「ほめられたいと思って」頑張った。給料は時給1ドル10セント、ところがブラセロスでさえも出来高払いなので自分よりいい稼ぎだったので、昇給を要求したら「やめてもいいんだぜ」と言われて、やめて、17歳で海兵隊に入ります。彼は頑張って公務員の資格も取って、州刑務所の矯正司の仕事もしたのですが、言われた通りにメキシコ系と黒人の囚人たちを殴れず、このままじゃ低級人間になってしまうと思いやめました。

だんだん、なにもかもがおかしいってことがみえてきた。

地主は穀物に水をやる精密な配水設備をつくるのに労働者の小屋には水道もない。家畜の世話はするけれども労働者の医療手当はない。土地の補助金はあっても労働者には失業手当がない。

1964年だったか65年だったかに、飛行機で畑に、化学薬品を散布したことがあったんだ。散布作戦とかなんとか名をつけてたナ。あまり低空飛行をしたんで、車輪が柵の電線にひっかかってさ。パイロットは起き上がって、埃をはたきおとすと、水を一口飲んだ。そいつは即座に発作を起こして死んだ。救急車の職員は、患者にくっちてた殺虫剤が原因でひどい病気になっちまったんだ。水まき装置の近くで遊んでた小さな女の子は、穴に舌をつっこんでさ、即死だった。

…めちゃくちゃな時代です。振り返ると日本にもこういう時代がありましたね。

そして彼はシーザー・シャベーズ(本文にはこう書かれています)を知ります。セサール・チャベス、シーザー・チャベス、日本語で検索するといろいろ呼ばれてますが、Cesar Chavezです。この人は全米農業労働者連合の創始者、文句無しにアメリカの隠れた偉人、英雄です。

シャベーズがサリーナスへやってきて、そこで俺は畑仕事をしてたんだけどさ、そこであの人をみるまで、あんなに素晴らしい人だって気がつかなかったんだ。俺はそのデモにでかけたけど、でもまだ会社側にいるつもりだったんだ。だけど、なにかがあったーよく分からないんだけどー俺は労働者に近いって感じた。連中は英語がしゃべれなくて、俺に、スト側のスポークスマンになって欲しいって言ったんだ。なぜだか分からないなーなんていうか、すっかり巻き込まれちゃってね、ほら、連帯って美しい感情にさ。

朝4時、ピケに人々がみえる。キャンプファイアーのところにもだ。豆やコーヒーを温め、トーティラを焼く仲間もいる。この光景は俺に、仲間なんだって感情を与えてくれた。この連中が俺の民族で、やつらは変化を必要としてるんだ。これこそ、俺が求めていたものなんだ。今まで分からなかっただけなんだ。

イイネ! 労働運動の輝かしい側面です。こうして彼は、労働者と団結し、地主と団交するようになったとさ、という話でした。『怒りの葡萄』その後、といったテイです。